ある日、システム開発会社に少し風変わりな案件が舞い込んできた。内容は「勤怠管理ソフトの開発」である。勤怠管理ソフトといえば、市販のものが数多く存在し、通常であればそれを導入すれば済む。
しかし、今回の依頼はそう単純ではなかった。依頼主であるホール企業が、市販のソフトではその要望を満たすものがないために特注の勤怠管理ソフトを依頼してきたのだ。
このホール企業は、実は飲食店の運営も行っている。アルバイトの数は全体で250人。そして、その飲食業部門で深刻な問題に直面していた。慢性的な人手不足であり、特にアルバイトの確保が困難だった。求人を出しても応募者が少なく、やっと雇えた従業員も遅刻が常習化しているという。しかも、10分や20分の遅刻ではなく、1時間、2時間も平気で遅れる猛者までいた。かと言ってクビにすれば、ますます人手不足に陥る。これでは店舗の運営に大きな支障が出るのも無理はない。
この問題を解決するため、オーナーは知恵を絞った。それが「通勤時間を勤務時間に含める」というアイデアだ。ただし、これは出勤時に限り、退勤時には適用されない。通勤時間を勤務時間に含めることで、少しでも従業員にとって魅力的な労働環境を提供し、優秀な人材を集めようという狙いだ。
しかし、通勤時間をどうやって正確に計測するのか? そこで登場するのが、スマホのGPS機能だ。従業員が通勤時にスマホを持ち歩き、そのGPS情報を元に通勤ルートと時間を自動的に計測する仕組みを導入するという。もちろん、自己申告でも構わないが、GPSを利用することでより精度の高いデータが得られる。
これにより、勤務開始前の通勤時間もきちんと管理され、結果として従業員は通勤時間が給与に反映され、高待遇を受けられる。
なぜそこまでの対応を取るのか? それは、どうしても人手が足りないからだ。慢性的な人手不足に悩む企業にとって、優秀な人材を確保するためには何かしらのインセンティブが必要だ。
特に、飲食業界は過酷な労働環境で知られており、応募者が少ない状況では高待遇を提示することが重要となる。通勤時間を勤務時間に含めるという提案は、従業員にとって非常に魅力的であり、応募者の増加が期待される。
しかし、この仕組みには注意点がある。もし、従業員が遅刻した場合、その日の通勤時間は勤務時間に含まれないというルールだ。これは当然の措置であり、遅刻を抑止するための一環でもある。遅刻者にまで通勤時間を認めてしまうと、制度そのものが無意味になってしまうため、ここは厳格に管理される。
この特注の勤怠管理ソフトの開発依頼は、一見風変わりに思えるかもしれないが、実は現代の労働市場において重要な課題に向き合ったアイデアだ。
人手不足が深刻化する中、企業は従業員に対する待遇を見直し、柔軟な働き方や新しい福利厚生を提供する必要がある。この勤怠管理ソフトは、その一環として誕生したものであり、同様の問題を抱える他の企業にも需要があるかもしれない。今後、このようなソフトウェアがさらに普及し、労働環境の改善に一役買うことになるかも知れない。
必要は発明の母といえる。
人手不足に挑む!奇妙な勤怠管理ソフトの開発を依頼したホール企業
同じテーマの記事
- 清泉寮ソフトクリームとホールオーナーの情熱12月22日
- 常連客が残した置き土産の顛末12月22日
- 成り上がり者の天国と地獄12月22日