
この求人に都内のホールに勤務していた2人の女性スタッフが応募した。しかも、彼女たちは応募と同時に、勤務先の店長に退職願を提出したという。店長にとってはまさに寝耳に水の出来事であり、突然の戦力流出に戸惑うばかりだった。
この2人は共にホールで5年以上勤務していた中堅スタッフだった。接客にも定評があり、常連客からも愛される存在だった。そんな2人が同時に退職の道を選んだ背景には、彼女たちの「ちいかわ愛」があった。
ちいかわは、イラストレーターのナガノ氏によるキャラクターで、SNSを中心に爆発的な人気を博している。アニメ化もされ、グッズやコラボイベントも多数開催されるなど、今や一大コンテンツとなっている。彼女たちは熱烈なファンであり、「いつかちいかわに関わる仕事がしたい」という思いを長年抱いていたという。
彼女たちが「ちいかわパーク」の求人情報に飛びついたのは当然の流れだった。しかも、募集要項には「テーマパーク・アミューズメント業種経験」「接客業経験」などが優遇条件として明記されていた。
2人はまさにそれを満たす“即戦力”だった。なぜなら、1人は東京ディズニーランドでキャストとして働いていた経験があり、もう1人はサンリオピューロランドでダンサーを務めていたからだ。
ホールでの時給は1380円。対して「ちいかわパーク」の時給は1260円とやや低めだ。にもかかわらず、彼女たちはあっさりと転職を決断した。
「好きなことを仕事にできるなら、時給なんて関係ない」と語る2人の表情は晴れやかだったという。
このような事例は、現代の労働市場における価値観の変化を象徴している。単なる収入や条件よりも、「好き」「やりがい」「自己実現」といった内面的な満足を重視する人が増えているのだ。特にZ世代やミレニアル世代ではその傾向が顕著だ。
その一方、彼女たちの突然の退職申し出に店長は、「ちいかわって何?」というレベルだった。キャラクターの存在すら知らなかった店長にとっては、理由が理由だけに引き止める言葉も見つからなかったようだ。
採用が決まったわけでもないのに、転職を決意した2人にとっては「夢の第一歩」であることは間違いない。

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