まず、インドの人口動態を再確認しておきたい。国連の推計によれば、2023年4月時点でインドの人口は14億2860万人に達し、ついに中国の14億2570万人を抜いて世界一の人口大国となった。
しかもその平均年齢は約28歳と非常に若く、人口構成から見ていわゆる「人口ボーナス期」にある。労働力の供給が豊富で、個人消費も今後ますます活発になることが予測されており、2050年には16億人を超える見通しである。このような状況は、あらゆる産業にとってインドが有望な成長市場であることを意味している。
すでにイーロン・マスクもこの点に着目しており、欧米市場でのテスラの販売が伸び悩む中、インド市場の攻略に舵を切った。モディ首相との接近を図り、現地生産を視野に入れた動きも見せている。
パチンコ業界でも、こうした国際的な潮流と無縁でいられるはずがない。2年前の拙稿を読んだか否かは分からないが、事情通の話によれば、あるホール企業が英語とヒンディー語に堪能な人材を現地に送り込み、インド市場の調査を進めているという。興味深いのは、その「社員」が必ずしも日本人ではない可能性が高いという点である。むしろインド人である方が合理的である。
たとえば、亀田製菓がインド人の会長を迎えているように、日本企業がインド市場を真剣に攻めるのであれば、現地の事情に通じた人材を重用するのは当然の判断である。
文化、言語、価値観、消費行動の全てが異なる地において、日本人だけで市場を切り拓くのは限界がある。よって、現地人材の活用は、進出の成否を分ける鍵となる。
ただし、インド市場には独特の社会構造が存在する点も忘れてはならない。法律上、カースト制度はすでに禁止されて久しいが、特に地方部や農村地帯では未だにカーストによる差別や規制が根強く残っている。特に最下層とされるシュードラや、さらにその下に位置付けられる「指定カースト」と呼ばれる人々は、社会的にも経済的にも不利な立場にある。
そうした層に対し、パチンコという娯楽が新たな娯楽の選択肢となる可能性があると見ているようだ。
日本でも戦後の復興期に、庶民の娯楽としてパチンコが急速に広まり、生活に活力を与えた歴史がある。同じように、経済成長の過程にあるインドの下位層にとって、安価で手軽な娯楽であるパチンコが受け入れられる余地はある。もちろん、そのためには宗教的、文化的な配慮や現地法との整合性を踏まえた慎重な展開が求められる。
現在、ホール企業は遊技機の製造・販売からホール運営までを一気通貫で行うモデルを夢見ているとされる。パチンコは日本では風営法でがんじがらめに規制されているが、インドでは制度設計を一から行うことができる余地がある。
つまり、法律とビジネスモデルの最適解を模索しながら、パチンコ業界が初めてゼロベースで「理想の形」を実現できるチャンスとも言える。
もちろん、宗教観やギャンブルに対する世論、政府の方針など乗り越えるべき壁は多い。しかしながら、「新市場の開拓」という観点で見れば、インド進出は次なる成長の鍵となるかもしれない。インド市場を一から開拓したスズキ自動車が先行者利得で独断市場を築いているように。

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