今年、大手タクシー会社のとある営業所に配属された新入社員2名も、奇しくも共に同じホール企業の出身者だった。教育担当者が、そのうちの1人と話す機会を得た。
彼は現在29歳。新卒でホール企業に入社し、配属されたのは低貸し専門の店舗だった。低貸し専門店は客層も比較的高齢者が中心となる。彼は当時をこう振り返る。
「同じチェーンの中でも、基幹店に配属された者はまだやる気がありましたが、私のように低貸し専門店に配属された組は、早々に気力を失っていました。店長を目指して入社したものの、そもそも新店が増える気配もなく、ポストが空く可能性もゼロに近い。先の見えない状況に絶望感を覚えました。50歳、60歳になってもホール周りしている自分を想像したとき、『これは違う』と強く思いました」
そんな折、同期の一人がタクシー業界に転職し、活き活きと働いているという話を聞いた。それに触発される形で、彼もタクシー業界への転職を決意した。
タクシー業界の魅力は、何より年齢に縛られずに働ける点にある。70歳を超えても現役でドライバーを続けることが可能であり、また、努力次第で収入が大きく左右される点もモチベーションになる。都内では、インバウンド需要の回復もあり、タクシードライバーの収入水準は比較的高い。年収で550万~600万円に達する。ホール現場で消耗し続ける未来と比較すれば、タクシー業界は現実的な選択肢に映ったようだ。
加えて、パチンコ業界に漂う将来への不安も、転職の大きな要因となっている。パチンコ業界はすでに「斜陽産業」と言われて久しい。規制強化、遊技人口の減少、若年層のパチンコ離れといった逆風が止まらないにもかかわらず、業界首脳陣は明確な成長戦略やビジョンを描けずにいる。現場で働く若手社員たちは、こうした「将来のない」空気を敏感に感じ取り、別の道を模索し始めているわけだ。
もちろん、パチンコ業界全体が手をこまねいているわけではない。業界最大手の一角であるマルハン北日本カンパニーでは、今年の入社式で127名が新たに入社した。その内訳を見ると、メインはパチンコ事業だが、観光事業や硬式野球部員といった多角的な事業展開も進めている。一本足打法からの脱却を図ろうという意思の表れだろう。新入社員たちも、パチンコ一本ではなく、将来に渡って成長可能なビジョンを求めていると考えられる。
だが、業界がこのまま若手流出を放置すれば、いずれ組織の再生産は不可能となり、緩やかな死を迎えるしかない。だからこそ、パチンコ業界は今こそ本気で「転職されない環境作り」に取り組まねばならない。
では、具体的にどうすればよいのか?
まず、「キャリアパスの明示」である。
ホールスタッフが将来的にどう成長し、どのような役職・職種に就くことができるのかを、はっきりと提示することが不可欠だ。現場に閉じ込められるイメージを払拭し、たとえば営業企画、店舗開発、人事、あるいは多角化事業への道筋を明確に示すべきである。
次に「店長への道を短縮する」ことである。
特に優秀な人材には、短期間で責任あるポストを任せる仕組みを作るべきだ。入社して10年かけてようやく店長、ではなく、実力次第で3~5年で店長に昇進できるルートを用意することで、若手の意欲を保つことができる。
最後に「現場マネジメントの質を上げる」ことも重要と言える。
パワハラ、理不尽な指示、無意味な上下関係──こうした旧態依然とした企業文化を一掃しなければならない。若手が定着する企業とは、上司に信頼が持てる職場である。現場リーダー層の意識改革もまた急務である。
今の若者はかつてのように「我慢して働き続ける」ことを選ばない。現場に未来が見えなければ、迷うことなく別の道を選ぶ。タクシー業界へと流出する人材を引き留めるには、パチンコ業界自身が根本的に変わるしかない。

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