パチンコ日報

ニュースにならないニュースの宝庫 

第2話 失意 ②

恐るべき戦士たち

十五分たったのだろう、店長の合図で正面入口のシャッターがやっと開き始めた。その頃には先ほど恥ずかしめを受けた僕は店内にいた。そしてこれから恐ろしい光景を目にするのである。シャッターが三分の一ほど上がりかけた時である。なんと先頭の集団が我先にと,まだ開ききっていないシャッターをくぐり始めた。

少しでも早く、誰よりも先に、と群衆は一斉に身を丸くし、匍匐(ほふく)前進でこちらに突進してくる。地べたを這って第一障害物のシャッターを抜けると、先頭の戦士が第2の障害物であるスイッチが入っていない自動ドアを全身の筋肉を駆使してこじ開ける。

さっと視界が広がる。しかしここでも戦士たちは立ち止まらない。事前情報で新台の設置場所は頭の中にインプットされているから迷わず、一目散にそちらめがけて走り出す。足がもつれる。倒れそうになる。右手を地面についた。

しかし倒れない。目の前の角を左に曲がればお目当ての新台が待っている。直角に曲がるのにはテクニックがいる。戦士たちは既にそれを本能で知っているのか。左腕の振りは小さく、右腕のふりを大きくふる。そうすることによって減速は最小限に抑えられる。

「走らないでください!順番ですよ!」

そんな注意に耳を傾ける人なんかいるわけない。ここは戦場だ。彼らは鉄条網をくぐり抜け、次々と侵入を試みるソルジャーのごとく、潔く店内へとなだれ込む。そう、敵地において少しでも有利な体制を確保するために。店内にいち早く入り込んだものは負傷が少ない。

しかし正面入口付近の混乱は一層激しさを増す。シャッターはやっと全開したが、ガラス製の自動ドアは半開きのまま。50~60名くらいの人が店内に入ったとき事件は起きた。後ろからの圧力で挟まれた数名の人が悲鳴を上げる。

「きゃぁ!」
「押すな、押すな!」
「ぐぇ~!」
「やめろ、やめてくれぇ」
「ちょっと、どこさわってんのよ!」

阿鼻叫喚とはこのことを言うのか知らん。着物の帯を引っ張られ、あれ~と言いながらくるくる回る時代劇の被害者的奥方様のように、その場で何回転もしているおじいさん。後ろからの圧力でガラスドアにへばりついたまま抜け出せないおばさん。その顔は水槽にへばりついたアワビのようにも見える。

紙コップに入ったアツアツのコーヒーが手にこぼれて「あちちち」と何故か苦笑いをしているおじさん。それらは本当に一瞬の出来事であった。初めての新装開店を経験する私は、全く気が動転していた。

「あっ!」と声を上げたのが先か後かは覚えていない。

ドア付近で女性客が転んで後ろからなだれ込んでくる人たちに踏みつけられた。彼女は起き上がることができない。僕はそれでも次々となだれ込む人々をやり過ごし、じっと見ていることしかできない。ほぼ全員が入場したあとも女性は臥せっていた。

店の外には無数の紙コップと空き缶。そして膨大な量のタバコの吸い柄。チンドン屋は我関せずを決め込み、クラリネットや太鼓をどこ吹く風で涼しげに演奏している。おそらく彼らはこんな光景を何度となく見てきたのであろう。入口の内側では片方だけ放り出されたサンダルやつっかけ、そして靴の群れ。僕ひとりだけが呆然としてたっている。と、いきなり開店を合図する軍艦マーチが鳴り始める。
 
なんてひどい有様だろう。そのさまを見ているうちにだんだん怒りにも似た感情がこみ上げる。我に返った僕は倒れた女性にそっと近づく。僕はウンウンうなっている小太りのおばさんが必死に起き上がろうとするのを手伝おうとし、「大丈夫ですか」と声をかけたその刹那、

「痛いに決まってるじゃないのよ、ばか!まったくもう!」というが早いか、むっくと立ち上がり、左肩をさすり、びっこを引きながら、そして脱げた片方のつっかけを探しもせず、新台めがけて走っていった。

右足だけのピンクのつっかけの上に白い靴下を三段折にして履いている姿がやけにまぶたに焼き付いた。彼女も間違いなくれっきとした戦士のひとりであるのだろう。彼女をここまで駆り立てるパチンコとは一体なんなのだろうか。新装開店とはここまでして開催するものなのだろうか。気がつけば店内はいつもにもまして活気にあふれている。

「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。本日当ホールは新装開店初日と相成りまして、お客様をお迎えでございます」カルティエ眼鏡のマイク放送が始まった。

つづく


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