快く引き受けてくれた先輩は当該店舗の釘を一眼見るなり、「全部で250台、俺の釘にするのに2週間はかかるから」と言っただけでその日から仕事を始めてくれました。
閉店後11時から朝の4時まで毎日かけて最終的には2週間を2日ほど過ぎましたが顔づくりを完成させたのです。何故そこまで時間がかかったか?それは気の遠くなるような地味な作業の繰り返しを飽きることなく淡々とやりこなしたからに他なりません。
彼は同一機種もしくは一島に設置された機械の台形補正から始めたのです。例えば当時人気機種だった18台のモンスターハウスのヘソの根本を全台11.05で統一します。
あくまでも本人の玉ゲージでの感覚です。その後カニ歩きをしながらヘソの手前部分を根気よく板ゲージをあてがいそれをメモします。そのブレ幅は11.20〜11.50。彼は一番多いサイズ11.40に全台ペンチを入れて調整し直したのです。
これでこの機種は奥で11.05、手前で11.40に統一されたのです。「これで大体スタート5.8回くらいや。俺のゲージならな。もっともここのホールコンはスタート出んからわからんけどな。ま。稼働が上がればえんやろ」ゲンちゃんの実力を知っていた私は「ええで」とだけ答えてあとは任すことにしました。
ここで誤解のなきよう伝えますが彼はスタート帯を揃えることを目的としておらず、自分が狙った通りのスタート帯を演出することを目的としているのです。
「そんなもん、毎日同じスタートやったら客も飽きるやろ。回る台と回らん台があって普通や。それをこっちが客の顔色見ながら演出してやるからこの仕事はおもろいんや。違うか?」何十回と聞いたこのセリフだが、妙に説得力があるのが不思議でした。
後日談ですが、ゲンちゃんがこの店の釘を叩き始めて稼働は見る間に上がって行きました。時代も良かったのでしょう。良いものを作れば顧客はすぐに反応してくれたのです。良いものとはこの場合に限って言えばスタート帯の近似値を指します。
現に半年後にスタートが表示されるホールコンを導入した時のことでした。「部長、今までこんなにスタートがきっちり収まってるホール見たことないですよ」とホールコンメーカーの人間がたまげていたのです。私はそれが我が事のように嬉しかったのでした。
あくまでも昔の話です。今はここまでやれと言っても無理でしょう。それにそうまでして苦労しても報われない状況にもありますから。現状にマッチしたやり方は当然ありますが、
私はゲンちゃんの根っこにある釘に対するあり方はわかって欲しいと願ってやみません。

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