きっかけは、入社5年目の社員が道端で拾った1匹の猫だった。
この社員は、これまで無遅刻・無欠勤の優等生。上司や同僚の信頼も厚く、勤務態度にも一切の問題はない。しかし、社員寮は「ペット禁止」という明確なルールがある。にもかかわらず、彼は見捨てられなかった猫をこっそり自室で飼い始めてしまった。
音楽を流して鳴き声を消そうとするなどの工夫はしていた。しかし猫の鳴き声は完全には隠せず、隣室の社員が「猫の鳴き声が聞こえる」と会社に報告。結果、猫を飼っていることが発覚した。
寮のルールに違反した以上、本来であれば退寮処分が妥当だ。だが、総務部は頭を抱えた。彼を処分すれば退職の引き金になりかねない。優秀な人材を「猫1匹」で失うことは避けたい。
しかし特例を認めれば、他の社員にも「ルールを破っても許される」という前例を作ってしまう。総務担当者は板挟みの状態だ。
ここで考えたいのは、単なる規則違反の問題ではなく、「社員と企業の信頼関係」をどう守るかという点だ。
組織が大きくなればなるほど、ルールの一律適用が求められる。一方で、現場で汗を流す社員の感情や事情を無視しては、組織の温かみを失う。
今回のケースにおける現実的な解決策として、いくつかの選択肢を考えてみた。
まず第一に、ペット可の物件に転居してもらう案。
社員寮は家賃1万円・光熱費無料という好条件だが、都内でペット可物件を借りると月7~8万円は覚悟しなければならない。その差額は大きく、本人の経済的負担は増す。
会社が寮費相当の1万円を家賃補助として支給しても、本人の持ち出しは月6万円前後となる。この方法はルールを守りつつ、猫の命も守れるが、社員にとっては金銭的に厳しい。
次に社内にペット対応の仕組みを検討する案。
例えば、ペット可の別棟寮や、社宅制度の柔軟化を進めることだ。単身者でもペットを飼う人が増えている現代では、福利厚生の一環として「ペット可住居」を選べる制度が企業の魅力にもなりうる。
すぐの対応は難しいが、今後の働き方の多様化を見据えた前向きな対応といえる。
結論として、今回のケースは「ルール違反」として処理するだけではもったいない。
猫を拾った社員は、情に厚く責任感のある人物であり、その性格は企業にとって財産でもある。罰を与えるよりも、どうすれば社員の思いや行動を肯定しつつルールを守れるかを考えるべきだ。
総務担当者は、本人と率直に話し合い、退寮を前提としつつも転居補助や猶予期間など、実情に寄り添った措置を取ることが最善ではないだろうか。
ルールを守ることは当然だが、その運用に“人の温かさ”を忘れないことが、長く社員に愛される会社の条件でもある。
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現実は、組織の公平性を守るための「本音と建前」の調整。
正解はない。
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