それでもなお、ユーザーの間では「遠隔神話」が根強く生き続けている。
典型的なのが、「あの店は特定の客だけ勝たせているらしい」という類の噂だ。勝っている人がいれば疑われ、負けが続けば確信に変わる。証拠はなくとも、感情が噂を事実のように増幅させていく。
競合店がひしめくある地域での話だ。この界隈では複数のホールを行き来するユーザーが多く、情報も人づてに流れやすい。そんな中、あるホールで「遠隔をやっているらしい」という話が出始めた。
ネガティブな話題ほど口コミの拡散力は強く、やがてそれは、あたかも既成事実のように語られるようになった。
遠隔の噂があるホールと、そうでないホールを行き来している客の一人が、後者の店長にこう告げた。
「あそこ、遠隔してるらしいよ」
同様の話が一人二人ではなく、複数の客から寄せられたことで、店長はこの噂が客同士の間で「共有情報」になっていることを確信した。
しかし店長の認識は冷静だった。
「今どき、そんな馬鹿なことをするホールはないと思います」
競合店であっても、業界人としての常識からすれば否定せざるを得ない話だった。
店長はこの状況をオーナーに報告する。するとオーナーは、ある対策を指示した。それは店頭に一枚のポスターを掲示することだった。
《他店では分かりませんが、当店では決してお客様を裏切るような遠隔などの行為は一切しておりません》
一見すれば誠実なメッセージだ。しかし、掲示からしばらくして匿名の抗議電話が入る。店側は、遠隔の噂が立っている競合店からのものではないかと推測した。
結果として、そのポスターは剥がされることになった。遠隔問題がこれ以上表沙汰になること自体が、業界全体にとって不利益だからだ。過去の過ちを完全に消すことはできないが、いつまでも引きずり続けるのもまた得策ではない。
それでも、噂は消えない。事実ではなく、記憶と感情が生み出す「神話」として、今日もどこかのホールで囁かれている。業界が本当に向き合うべき敵は、不正そのものよりも、この消えない疑惑なのかもしれない。
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