カジノ王を失ったマカオのカジノ業界に激震が走ったのは、今年11月27日のことだった。マカオのカジノ業界で大物ジャンケットであるアルビン・チャウ氏が中国当局に逮捕された。中国共産党は賭博撲滅を統治の重要な柱の1つと位置付けている中で、逮捕容疑は中国本土で違法な越境賭博とオンライン賭博を提供したというものだ。チャウ氏は中国の富裕層をマカオに案内して賭博をさせるビジネスを大々的に行っていた太陽城集団のCEOでもある。
この一件は、カジノ産業への依存度が大きいマカオ経済の行く末に暗い影を落としかねないとも言われている。中国では違法な賭博だが、中国領のマカオでは賭博が許されてきた。習近平体制になって汚職撲滅と賭博撲滅に向けての締め付けが強化されている。
今回の逮捕劇は、中国共産党の大物幹部との関係を築き上げていたスタンレー・ホー氏を失ったことで、規制強化がしやすくなったことを意味する。
習近平政権がマカオのカジノ産業に厳しい目を向けている理由は、マカオのカジノは、中国の富裕層によるマネーロンダリングにしばしば利用されてきたことも挙げられる。中国大陸からマカオに流れ込む資金は、年間に2000億ドルを超すといわれている。
マカオのカジノ産業の収益はコロナ前の2019年には、月30億ドルに達したこともあったが、今はコロナの影響などもあり5億~10億ドル程度にとどまっている。汚職・腐敗撲滅闘争で共産党や企業の幹部がマカオで豪遊することが下火になっているところへ追い打ちをかけるような規制の強化である。習近平演説の中で、マカオ経済の「多元化」、つまり脱・カジノが言及されている。
「マカオのカジノについては、数を半減させる狙いがあるようです。マカオのカジノの力を削ぎ落すということは、日本のカジノには追い風となります。日本のカジノに懐疑的だった人たちが儲かる事業だと思い始めたぐらいです。マカオのカジノがなくなれば、日本国内には10カ所できてもやっていける、という試算も出ているほどです。半減したとしても6~7カ所はいける」(IR事情通)
実際、習近平は共産党体制に背くような企業経営者には圧力をかける。アリババグループの創業者であるジャック・マーが中国の金融制度を批判したことに当局が激怒して、傘下のアント・フィナンシャルの新規株式公開が中止に追い込まれたり、アリババに対して独禁法違反で、日本円で約3100億円の罰金を科したことは記憶に新しい。
習近平体制が、民営企業への規制強化を図るようになった背景には、「先富論」から「共同富裕論」へという発展戦略の転換や、「国進民退」(国有企業のシェア拡大と民営企業のシェア縮小)に象徴される市場化改革の後退、そして安全保障の強化などがある。
マカオからカジノがなくなったとしても、中国人が海外で賭博を行うことを禁止したら、日本のカジノ成功も儚い夢となる。中国依存の怖さは観光産業がインバウンドで思い知らされている。

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