パチンコ日報

ニュースにならないニュースの宝庫 

第2話 失意 ③

虚ろ

「さあ!本日もパチンコローマへご贔屓ご来店いただきまして、まっことにありがとうございます、ありがとうございます。大変長らくお待たせいたしました。噂の平和からはブラボーコーナー、ご存知サンキョーからはフィーバーコーナー、加えて羽根物も忘れておりません!こちらのコースも絶好調!最高潮!大好評!キングスターにギャラクシー!権利物は京楽からの名作コスモアルファーといずれもよそにない新機種をいち早く、多数取り揃えましてのお迎えでございますれば本日も出ます、出します、取らせますっと三拍子も四拍子も準備いたしましてのお迎えでございます!」

相も変わらず、カルティエ店長の名調子が続く。ホールは俄然活気づき、あちらこちらでチンジャララ、チンジャララと早くも玉が出てくる音がする。さらにカルティエは吠えまくる。

「はーい、一番乗り出てまいりましたぁ!165番台にお座りのお父さん!早速のフィーバースタートォ!おめでとうございます、ありがとうございます!さあ、お客様当店では本日玉の出し惜しみは一切しておりません!さ、1番台はもとより2番3番5番台と続きまして、ラストナンバー528番台に至りますまで、はい!機械調整から釘調整、さらにはバネ調整と全て万全の態勢で執り行っております!全機優秀台!お手に合いますれば出てまいります!左サイドから右サイド、それからセンターとございます、お好みのコースを弾いてくださいませ。パチンコ必勝法は一に頑張り、二に粘り、三・四がなくて五に根性!本日も当店のルールとマナーにのっとりまして、どちら様もジャンジャンバリバリ、ジャンジャンバリバリっとお取りお出しくださいませ!さあさ、おとうさんもおかあさんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、おにいちゃんもおねえちゃんも、はい!どうぞこちらへおこしくださいませ!ささ、どうぞ奥へ中へ、中へ奥へとぐっとお進みください!本日もいたるところにラッキー台が、いたるところにご幸運がお客様に甘い甘い吐息を投げかけてのお迎えでございまするぅ!」

よく聞いてみると結構変な節回しもあるのだが、その真剣な面持ちから発せられる姿はなかなかの迫力だ。カルティエは満面の笑みでホールをのっしのっしと歩きながら、一言一句噛み締めながら、そしてお客さんの顔色を見ながら、延々と語り続ける。

しかし今の僕にはそんな姿も、何故か虚ろに見える。入場の時の凄まじさがまだ頭から消え去らないでいるからか。ぱちんこやは多少のトラブルがあっても平然として居丈高に客を飲み込む。何かの粗相があってもお客さんに対しては毅然としている。

「すいません」なんて言葉を発しようものならそこをお客さんは突いてくる。だから店側は悪びれる様子もなく、淡々と事を進める。不思議なことだが、それをあえて咎めるお客さんもいない。

そんなものなのか。そんなものなのかもしれない。お客さんは自分が玉を出して儲けようという行為に夢中になり、店側は客を遊ばせてやってる、という感覚なのか。そしてその上がりをしっかりとガッチリと会社の利益として計上する。

ここにはここだけに通用する常識がある。僕にはその生理がよくわからない。ここにいる人たちの気持ちがよくわからない。なんでお客さんたちは毎日ぱちんこをしに来るのか。なんでカルティエはあんなにムキになってマイクを握っているのか。なんで従業員たちは汗ダクダクになってホールを走り回っているのか。

こんなことばかりを毎日繰り返して何が面白いのか。答えが見つからない疑問がとめどなく湧きでる。僕はこんなことを一生続けなければいけないのだろうか。そしてその終りには一体何が待ち受けているのだろうか。世の中はこんなものなのか。社会人ていうのはこれでいいのか。僕が学生の時に描いていた社会人とは全くかけ離れているではないか。

「こらあ!坂井!おまえなにボサっと突っ立ってやがんだ!三番島のドブが詰まってるから早くこっち来て手伝え」

カルティエの怒鳴り声に僕は我に返った。促されるままにその現場に行ってみると、膨大な量の玉が機械を設置してある『島』の内側にびっしりと詰まっていた。

つづく



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コメント[ コメント記入欄を表示 ]

  1. よく理解できる。パチンコ屋は人を
    不幸にしかしない。疑問を持てるなら
    まだ正しく理性が機能してる証。
    世の中にはパチンコ屋は無い方が
    正しい姿だから。
    負け組  »このコメントに返信
  2. ピンバック: 負け組

  3. 島パンですね(ゝω・)
    猫オヤジ  »このコメントに返信
  4. ピンバック: 猫オヤジ

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