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キャベツの千切りが開いた第二の人生

ホールの人事担当者がアルバイト募集に届いた履歴書を眺めていたときのこと。年齢欄には「50歳」と記されていた。通常ならこの時点で書類審査から跳ねられるケースが多い。

ところが特技欄に記された「キャベツの千切り」という一文が妙に引っかかった。

その人事担当者は面接を決め、当日に備えてキャベツと包丁、まな板を準備した。ところが、いざ面接の日になると、応募者本人が自らキャベツと調理道具を持参して現れたのである。

「特技を見ていただくために持ってきました」と頭を下げる姿に、人事はまず気遣いの深さを感じ取った。

面接は自己紹介や志望動機を軽く済ませると、自然と「キャベツの千切り実演会」へと変わっていった。

手際のよさ、包丁さばきの冴えに、担当者は目を見張った。まるで機械のように一定の細さで刻まれるキャベツ。その技は一朝一夕で身につくものではなかった。話を聞けば、前職は居酒屋の厨房で、1日に30玉ものキャベツを千切りしていた、という。

昼間はランチ営業をしていて、とんかつに添えられるキャベツが大好評で、お客さんの多くは千切りキャベツを食べるためにとんかつを注文した。主役の座は千切りキャベツだった。

しかしその居酒屋はコロナ禍で倒産。料理の腕には自信があり、居酒屋メニューはすべて作ることができたが、再び居酒屋業界に戻る道を選ばず、全くの門外漢であるホールへの応募を決めた。

最終的に採用の決め手となったのは、その料理技術もさることながら「気遣いのできる人柄」だった。

即採用が決まり、人事担当者はすぐに社長へ報告。すると社長からは思わぬ指示が下る。「アルバイトではなく正社員で採用してほしい。料理の腕を生かす場がある」とほのめかした。

実は社長の妻は料理が得意ではなかった。そこで彼は自宅の食事を任されることとなったのである。やがて社長自身も、その腕前にぞっこんになった。特にキャベツの千切りの見事さに感嘆し、「キャベツを食べるためにとんかつがある」と冗談を飛ばすほどだった。

夕食の食卓には、連日まるで料亭のような料理が並んだ。季節の食材を使い、味付けも見事。社長夫妻は毎晩の食事を楽しみにするようになり、成人して巣立った子どもたちまで「晩飯を食べに来た」と頻繁に戻ってくるようになった。家族団らんの中心に、彼が作る料理があった。

やがて彼の役割は単なる「食事係」ではなく、家庭の潤滑油のような存在に変わっていった。料理がもたらす笑顔と会話の力を、社長一家が改めて実感したのだ。

そして報酬は、まさかの月給50万円。かつての居酒屋勤務では考えられなかった待遇である。アルバイトの応募から始まった縁が、胃袋を通じて信頼をつかみ、第二の人生を切り開いたのであった。

履歴書の一行が運命を変える――そんなことが本当にあった。



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