木村くんは暴走族にちょうど一年いた。彼は1年間使いっ走りを強いられ、いじめにあっていたわけだ。もっとも本人はそれでもよかったと今も言っているのではあるが。
彼が暴走族を辞めた理由は意外なものだった。ある日父親と何年かぶりで風呂に入ったときのことである。腕に無数の根性焼きを見るやいなや、父親は彼を叩いた。父は息子をこれでもかというほど打ち据えながら慟哭したという。父親の涙はとどまるところを知らず今まで言えなかった思いを、父親としての本心を彼に伝えたのだった。
「いくらだらしない親でも俺はお前の親だ。俺の分身であるお前の体が他人から傷つけられて俺は黙っているわけには行かねえ。しかもお前はそれをあたかも勲章をもらったかのように俺の前で自慢しやがる。ああ、お前はどうしようもない奴だ。早く仏壇の前に座って死んだ母 ちゃんに心から詫びを入れやがれ。そして二度とその集会なんかに行くんじゃねえ。暴走族なんぞやめちまえ」
父親はそれからしばらく口をきかなくなったという。木村くんは実の父親にここまで言われるとは思ってもみなかったらしい。やめたくはないがやめなくてはいけないと父親の涙を見てそう思ったところは彼の素直さではなかろうか。
しかしチームはそう簡単に足抜けを許さない。数日間彼は家でまんじりともせず過ごした。そして幾日かしたある日。父親が右目を腫らし、口元から血を流しながら帰ってきた。
「チームのリーダーっていう奴の家まで行って直談判してきたぞ。お前は気が小さいから『やめる』って言えねえだろうからな。そしたらそいつがただでやめさせるわけにはいかねえってほざきやがった。それがチームの規則なんだよと。けっ、暴走族にも規則なんてもんがあるんかねえ。でもしょうねえから『じゃあ、俺を好きにしろ!』って言ったらこのザマよ。あいつら本当に好き放題しやがって。ムカついたけどこれでお前が足洗えるなら安いもんだわな」
木村くんはそんな父親の話をしながら涙を目にいっぱい溜めていた。僕は黙ってその続きを聞いた。
「これでお前も普通の仕事について一生懸命に働くんだぞ。うちは貧乏なんだからいつまでも遊んでいてもらっちゃあ困るんだよ。わかっているな」
木村くんは泣いて親父に誤った。そして仕事を探してたどり着いたのがこのぱちんこローマだという。世間一般から見たぱちんこ屋は低俗な仕事なのかもしれない。事実、ぱちんこ屋で働く社員が何らかの犯罪に巻き込まれ、被害に遭いそれが新聞やニュース報道に載っても、会社員の誰それさん、とは出ない。ぱちんこ店店員とだけ報道される。
しかし木村くんの父親にとってはそんなことは関係ないのだろう。職業に貴賎はないと言うが、まったくそのとおりだと、木村くんの就職を膝をたたいて喜んでくれたらしい。僕は体を壊してろくに仕事もできない父親の生活を木村君の給料で賄っているということを今日初めて知った。
木村くんの生き方がいいか悪いかはわからない。もともと群れて行動をするのが嫌いな僕にとって暴走族なんていう選択肢はない。でもそれも人生なのかもしれない。
木村くんの父親が息子を思う気持ちに嘘偽りはないのであろう。羨ましいと思った。僕は厳しい表情をした冷徹な自分の父親の顔を思い出してみる。もし僕が木村くんみたいに道を誤ったらお父さんも体を張って僕を正しい道へと戻してくれるのだろうか。多分そこまではしないだろう、と思ったら急に心が冷えてきた。
つづく

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令和のいまも、日本人の心に(浪花節)は染みみますよ。
ホールのお仕事頑張って下さい。
ピンバック: ワイド
の直後に
「いくらだらしない親でも俺はお前の親だ。俺の分身であるお前の体が他人から傷つけられて俺は黙っているわけには行かねえ」
言動に狂気を感じてしまいました。
今ならDVで大問題ですが、当時だったら羨ましがられる父親だったんですかねぇ
ピンバック: 兼業農家
歪みすぎでは?
ピンバック: 狂気のマッドサイエンちすと
父親の立場がどうあれ、暴走族で根性焼きなる身体を傷付けられる行為を自慢のように語る息子に対し慟哭し、逸れてしまった道から戻すためにこれでもかというほど打ち据えた。
息子も驚きはしたが父親がここまで自分の事を考えてくれていたんだと再認識。
色々な見方はあるとは思いますが、これは強い愛情からくる教育でしょう。
狂気など微塵も感じません。
現代であってもDVと感じる人はいないと思います。
これをDVと感じる人はそもそもこんなありがたい場面に出くわさないと思います。
父子の関係がこんな暖かい関係性じゃないでしょうし。
今ですらありがたい父親ですよ。
なんでもかんでも否定していたら進めませんよ。
ピンバック: 名無し
感じるかどうかではなく、
「これでもかというほど打ち据えた」のなら完全にDVです。
どんな関係を暖かく感じ、ありがたいと思うかは個人の主観なのでどうでもいいですが、
立ち上がれないほど子供をボコボコにするのは現代なら間違いなくDVで、逮捕案件です。
それなのに「他人に傷つけられたら黙っていれない」というセリフに狂気を感じました。
ま、創作話に細かいこと突っ込むのは野暮だと分かってはいますが。
細かいついでに書くと、このシリーズは毎回誤字や慣用句の誤用が多く、今回だと
・数日間彼は家でまんじりともせず過ごした
・木村くんは泣いて親父に誤った
・膝をたたいて喜んでくれた
などがあります。
普段のエントリだとさほど気になりませんが、小説のような文になるとものすごく気になってしまうので、推敲してほしいです。
ピンバック: 兼業農家
別に何をしようと、注意する資格なぞ皆無だと私は
思ってしまいますね(^^;?
身体を張って息子の為に殴られに行ったのは一応は
評価は出来ると思いますけど….
物語に野暮な突っ込み入れるのもアホなのは重々
承知しておりますが自分の足で殴られに行ける
様な方が仕事出来ない(^^;?一体どういった身体の
壊し方をしているのか意味が分かりませんm(__)m
私も50半ばになり、今の一番の悩みはやはり息子
の事ですね..
自ら選んで自衛官をやっておりますが、
幹部学生卒業後にお付き合いしていた近所の
娘さんを平気で捨てたり、家業の事など一切
考えてくれて居ません(-_-)
出来れば孫の顔も見たいですし、適当な所で
隠居してのんびりしたい物です(*´ω`*)
「辞めてくれ」なぞとは間違っても言えないし
妻は妻で現状を何とも思っていないし(-_-)
自衛官の定年は50代半ばらしいのですが、
定年まであと30年も代表をやってたら私は
85ですよ(^^;
まあ息子が定年後に困らないだけの物を残して
おいてやりたいとか考えておりますがこれは
これで何か非常に虚しく感じてしまいますね(-_-)
「親の心、子知らず知らず」とは本当だと
思います(^^;
ピンバック: もと役員