パチンコ日報

ニュースにならないニュースの宝庫 

第4話 爪痕 ④

隠し事

三人とも口に出すことはなかったが連獅子に対して幻滅していたのは間違いない。がさつにみえてもボクら独身男性にとっては時には母親のように色々な面で気遣ってくれていたのが彼女であった。故にショックも大きい。しばらくのあいだ皆は沈黙の世界にいた。そしてじっとその場にいることが苦痛になりはじめた頃、関口さんが煙草を吸い始めた。僕もそれにつられてショートホープを取り出す。

「ぎえええーーー!」

手から煙草が落ちた。ウルトラマンに出てくる怪獣のような雄叫びは木村くんのものであった。僕と関口さんは三度仰天する。通常人間が悲しくて涙するときは必ず前兆がある。少なくともそういう雰囲気があってから涙に転じるのが普通ではないか。

しかし木村君の場合は突如として、その瞬間が訪れたのだ。僕たちは後ろにのけぞりながらそのおぞましい光景をただ見つめよりほかなかった。木村くんのその様はほほ肉がまず異常なまでに上の方向に吊り上がり、目が十時十分をさす。そこから洪水のように流れ出る涙が食卓の上にポタポタと音を立てながら落ちる。鼻水が怒涛のごとく湧き出し、そしてそれはぎえーー!の声と反比例しながら鼻の穴から出入りを繰り返す。

遠慮なしに空いた口からはヤニでまっ黄色になった並びの悪い歯が奥歯まで全部見える。僕は今までこんな醜い泣き顔は見たことがない。ただ今は何事も起きませんようにと黙ってその行く末を案じるしかなかった。
 
世紀末の様相を呈した木村くんの号泣は五分間にも及んだ。理由もわからず泣き止むのを待っていた矢先のこと。

「復讐してやろうと思ってたのに。ちくしょう!」

今度は一転して怒りの独演会が始まる。

「あっしは奴に毎日いじめられたっす。裏の掃除用具置き場に呼ばれてはボディーに何発も食らったでげす。客やみんなの前では格好つけているですけど、やつはあっしに対してだけは違ったでげす。あっしはなにもしてないのに暇を見つけては難癖つけてあっしを裏に呼ぶんでげすよ。一回に何回も何回もボディーブローを入れるんでやんす」

ほらと言って自らワイシャツを胸までたくし上げ、毛むくじゃらの醜い腹を見せた。僕らは絶句した。全体が異様なまでに紫色に変色した腹部が苦しげに呼吸をしている。

「顔はやばいから腹だけを狙ったんだな。まるで三原じゅん子みたいなやつだ」

本人はニヒルを気取っているつもりなのだろうがその表情と声のトーンが全く噛み合っていない。僕は腹を丸出しにしている木村くんと関口さんの空気を読めない台詞とのアンバランスさに呆れて失笑してしまう。

「でもお前が何もしていないのにいきなり殴るっていうのもなんか不自然だな。なんか弱みでも握られてたのか」

関口さんの言うことにも一理ある。

「え?それは・・・そのう・・・」

「ほら、やっぱりなんかあるんだな。この際だから全部ゲロしちまいな」

「実は・・・あっし、ホールで拾った玉を集めてカウンターに行っちゃ少しづつ両替の景品に換えてたんでげすよ。それが七千円くらいになったんで換金所に行ってお金に換えてるところを奴に見つかったんでげす」

「やっぱりな、おかしいと思ったんだよ。結局お前もあいつに弱みを握られていたわけだ」

二人のやり取りを僕は複雑な気持ちで聞いていた。ホールに落ちている玉って誰のものなのだろうか。それを換金することはいけないこと、なのか。僕はここに来て事の善悪の境界線が分からなくなってきた。しかし何か釈然としないものがある。関口さんは「おまえも」っていってた。何かがおかしい。

「あのう、関口さんさっきお前もって言いましたよね。それって関口さんもっていうことですか」

「いや、なに、まあ、その、なんだ」

明らかに狼狽している。そんなものは誰が見てもよく分かる。

「素直にゲロしちまいな」

木村君が関口さんに言われた台詞をそのまま本人に返す。問い詰められた関口さんは覚悟を決めると、別に悪びれる素振りも見せず、ゆっくりと二本目の煙草をまさぐる。彼は注目する僕ら二人を尻目に火のついた煙草を思いっきり吸い込み、ふうっとうまそうに白い煙を吐き出した。

「これから僕が言うことは誰にも言わないほうがいいよ。結構やばい話だからさ」

僕と木村くんはこくりと頷いた。

つづく


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コメント[ コメント記入欄を表示 ]

  1. 当時の7000円は大きいです。木村くんも同胞なら良いが日本人なら一世のオーナーに罵倒されきっとクビです。
    猫オヤジ  »このコメントに返信
  2. ピンバック: 猫オヤジ

  3. 遅ればせながら猫オヤジ様こんばんはm(__)m
    私の所は経営者が日本人でしたので業界在籍中も
    この手の話は色々耳にしましたが恥ずかしながら
    あまりピンと来ないんですよね(^^;
    なんせ脳容量が16ビットしか無いんで同時は
    ほとんどを営業に持っていかれていましたんで
    自分が預かっている店の事にしか全く頭が回らない
    んですね(^^;

    しかしながら総会やら組合の忘年会やらで知り合い
    になった在日の方逹は本当に熱い人逹が多く、
    いったん打ち解けると「蒼天の拳」に出てくる
    「ポンヨウ」みたいな関係になってしまう記憶がw
    ある意味、日本人なんかよりよほど信用出来る
    んじゃないですかね(*´ω`*)

    私の予想の斜め下を常に鋭く行く展開…
    続きが本当に気になる(*´ω`*)
    もと役員  »このコメントに返信
  4. ピンバック: もと役員

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