パチンコ日報

ニュースにならないニュースの宝庫 

第3話 漂流者 ①

暗雲

新装開店のお祭り騒ぎもひと段落付き、お店は正常の姿を取り戻しつつある。とはいえ今回の新しい機械導入に伴い来店客数はかなり増えた。というのは今までのぱちんこは時間消費型であったのに対し今回のそれはぱちんこファンのギャンブルに対する終わりなき欲求に火をつけるかなり過激な性格を持っていたからだ。

元来、ぱちんことはお客さんが100円、200円のわずかな投資で自分だけの時間を楽しみ、ある程度玉が増えたらキャラメルやタバコ、せんべいやサクマドロップ、明治の板チョコなどと交換してニコニコ顔で帰っていくのがその楽しみ方であった。

それはささやかな国民の娯楽であったのである。それに対し今回の機械は一発大勝負。ある特定の条件が揃うと無制限に玉が出てくる、という今までにない発想でお客の度肝を抜いた。

フィーバーというのはあるメーカーの商品名であるが、この「フィーバー」がこの機種を代表する呼び名に変わる。盤面上の中央、やや下にあるスタートチャッカーに玉が入ると、デジタルやドラム式のリールが回転する。そしてその役物に同じ数字が三つ揃うと大当たりとなる。

この瞬間客の脳はアドレナリンの大洪水状態。大当たりの条件が揃うと、普段はしっかりとその蓋を閉じていた盤面最下部にあるアタッカーと呼ばれる四角い役物がパカッと口を開ける。アタッカーが開くと機械台の上部にある従業員を呼ぶランプが自動点滅する。そして同時に派手なファンファーレが場内の全てのスピーカーを通じて館内に一斉に鳴り響く。

我々従業員たちはそれを合図にどこで大当たりしたのかをいち早く見定め、ブリキでできたバケツを用意する。そして大当たり台めがけて一目散に走り寄るのだ。
 
大当たりすると客が弾いたその玉のほとんどがアタッカーに吸い込まれる。4000個打ち止めの合図がかかるまでそう時間はかからない。機械ははチンジャララ、チンジャララと狂ったような勢いで玉を吐き出す。上皿から下皿へと玉は見る間に溜まっていき、そしてあふれ出す。下皿に貯まった玉を今度は手元の塩ビでできた緑色の箱へとお客さんは気ぜわしくかき集める。

普段どんなに冷静な人でもこの時ばかりはそうはいかない。顔面は紅潮し、ハンドルを握るその手は小刻みに震える。

「フィーバー」を一目見たくて周りで打っていたお客さんたちがその台を取り囲む。みんな羨望と嫉妬を絡めた表情でその台を食い入るように見つめる。大当たりのお客さんは引きつった笑いで、そんな必要もないのにすまなそうな顔をする。

塩ビの箱に玉がいっぱいになると今度はその玉を勢いよく足元に置かれたブリキ製のバケツにぶちまける。その音と言ったらものすごい。日頃の鬱憤をここで晴らすかのようにジャッジャーン、ジャッジャーンと勢いよくバケツにぶちまける。

なかにはその興奮に勝てず心臓発作を起こして亡くなってしまった老人もいた。老人は苦労を重ねて生きてきた。人前で目立つこともなくただ自分の足元をじっと見つめながらまじめに、まじめに生きてきた。おそらく他人がうらやむようなこれといった大げさな慶事など何一つなかった。

人にはいろいろな死に様がある、という。何も良いことなく生きてきた老人が人生の最後に「フィーバー」して死んでいくというのが良いか悪いかはわからない。この日も僕は朝から得意満面のフィーバー客を尻目にホールを駆けずり回っていた。そんなときに見慣れない客が一人入ってきた。
 
その男は禁煙パイポを口にくわえ、眼光鋭く辺りを見渡しながら私と目が合うと一直線にこちらへ向かって歩いてきた。僕は緊張した。男は角刈りで顔の色が異様なほど、どす黒い。右の頬に大きなホクロがあり、それがイボのように膨らんでいる。イボは恐ろしさを倍増させて僕を威圧する。近くで見るとその鋭い眼光を放つ目尻に傷がある。

「コイツはかなり喧嘩が強い。しかもプロだ」

瞬時にそう判断した。僕の緊張は更に高まる。僕はあたかもそこに人がいないかのような素振りで下を向いたり、横を向いたりとせわしなくなる。そいつはまるで獲物を品定めするかのように、僕の頭のてっぺんから足のつま先までをねっとりとしかもゆっくりと自分の頭を上下させる。「怖い」正直、心底そう思った。



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コメント[ コメント記入欄を表示 ]

  1. パチンコ屋って昔はゲームセンターみたいに
    適度な遊技だったけど。
    もはや自殺者もだしたまあまあ酷いギャンブル。
    あなた方はそれにむかいお金持ちになり、
    楽しんできた。もう庶民の遊びなど語れる立場に
    無い。ユーザーが見放して離れた今。
    無くなるべきです。パチンコ屋って悪いけど
    不幸を売る代表ですよ。
    負け組  »このコメントに返信
  2. ピンバック: 負け組

  3. SANKYOフィーバー懐かしいですね(当時、店員から大当り確率は1/500と聞いた記憶があります)。
    私が通っていたお店では打ち込み玉がプラスされる3,000個定量で(遅くなればなるほど大当りした時の出玉が多くなるシステム)、ある日学校帰り(もう時効でw)に立ち寄り100円で当たった時の衝撃は未だに忘れられません(その時は、バケツ軽く5つ分=12,500個位で定量になったと記憶しています)。
    その分、現在と比べると(オール13個戻しとは言え)スタート[たしかスロットと表記]の元ゲージは激辛で(特にヘソ周辺。盤面に穴が空いている飛込型スタートはその上部・下部[玉がここで撥ねて盤面側に飛ぶ為重要]の釘状態とストローク次第である程度攻略w可能)、他入賞口にボチボチ入っても玉が減るスピードは当時としてはおそろしく速く、普段「だるま(メーカー不明の普通電役)」「ゼロタイガー(平和というかハネモノの元祖)」「スクランブル(奥村ハネモノ第一号)」が精一杯の自分にとって、かなりビビりながら打っていた記憶があります。それでも、現在のハイスペックP機(ノーリミット)と比べたらショボイのでしょうが。。
    >心臓麻痺によるショック死
    ドラムに「777」停止後、最後のセンター窓に“7”が停止し“フィーバー”となった時の脳汁(ドーパミン)の量はハンパなかったと思います。たしかに老人が救急車で運ばれていくのを何回も見ましたから。。
    Bounanigashi  »このコメントに返信
  4. ピンバック: Bounanigashi

    • 貴重な実体験を聞かせて頂きありがとうございますm(__)m
      パチンコの流れを一変させた歴史的機種だと言うのに何故か謎に包まれているんですよね。
      私は初代フィーバーは見た事が無いのですが興味が有り業界入りした時に色々聞き回った記憶が有ります。
      聞いた所ではフィーバー登場の前年に貸し玉料金が3円から現在の4円に上がっておりこれも追い風になったみたいです。
      営業方法は4000個定量で仕事帰りの方の来店時刻に合わせて夕方からプラス打ち込み玉だった様です。(同じですね)
      朝から閉店まで満席で売り上げは10万は下らなかったそうで、私なりに計算するとベースは50個位だったのでは?と思います。
      台粗利も2万を切る事は無く間違っても赤字などにはならなかったそうです(^^;
      240台中、たった30台のフィーバーのお蔭で売り上げ粗利とも倍になり臨時ボーナスが20万支給されたとも聞いております。
      しかしながら設置出来たのは数ヶ月であっと言う間に撤去命令が出たそうです(^^;
      しかし代わりに出たアタッカー30秒規制テンカウント無しの方が使いやすかったと聞いております。

      同じ数字が3つ揃って大当たり\(^^)/
      もう何十年変わってないんだろ(^^;?
      もと役員  »このコメントに返信
    • ピンバック: もと役員

      • もと役員様

        初代フィーバー(太陽マーク)登場はハネモノ登場の一年前なので、私が打ったのもおそらく二代目以降の機種(火星人=タコフィーバー?)だったと思います。私が通っていたお店では開店からの打ち込み玉が全てプラスされるので、ずっと当たっていない台を狙う人が多かったです。ただ、当時はデータランプなどとシャレたものはなく(台番号が書かれた呼出しランプのみ。打ち止め札も打ち手交代で外されるシステム)、朝からいる常連のみが知っている状況でした。
        >30秒規制
        そうですね。すぐに規制が入り、その後、さらに15秒規制になって、アタッカー上の元ゲージの悪さからパンクが続出したのは苦い思い出です。
        >3つ揃って大当り
        ホント何十年も変わらないですね。しかもほとんどがそのタイプで占められているという。。

        無理だとは解かっていますが、つくづく原点回帰出来たら良いですね。
        Bounanigashi  »このコメントに返信
      • ピンバック: Bounanigashi

        • 貴重なお話をどうもありがとうございますm(__)m

          とある店では大当たりしても当たりを消化させて貰えず、釘を大きく曲げたチューリップ台に連れていかれ4000個定量まで打たされたと聞いたのを思い出しました。
          (当然それ用で終日打ち止め台状態)
          大当たりしたフィーバーは電源落として当たりを消して、次に並んでいるお客さんに開放していたみたいです(^^;
          とにかく売り上げが立つ台だったので考えたのでしょうね(^^;
          もと役員  »このコメントに返信
        • ピンバック: もと役員

          • もと役員様

            こちらこそ、これまた貴重な情報ありがとうございます。

            そこまで徹底しているホール、初めてお聞きしました。,,,究極の(客)回転率ですね(゜-゜)
            さすがに相当の開放釘(せめて高ベース)だったと思いたいですが。。
            Bounanigashi
          • ピンバック: Bounanigashi

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