シャッターがさびた音をさせてゆっくりと上がり始める。店の中では聞こえなかった喧騒が徐々にひろがる。担当の従業員が内側の鍵を外し、お辞儀もせずにドアを開ける。1秒と狂わずに館内に軍艦マーチが鳴り響く。
幼いころから運動や体育の授業で耳にしていたのに、こうしてぱちんこやの館内に響く大音量のマーチが僕の胸を震わせた。不思議な感覚だった。
軍艦マーチをはじめとした数々の行進曲に乗って迫力あるダミ声が威勢よく響き渡る。店長だ。内容はよく聞き取れなかったがマーチと一体感を醸し出す独特の節回し。一人で30分以上しゃべり続ける。
僕はある種の感動を覚えた。そしてその呼びこみマイクの虜になった。店長はマイクパフォーマンスを終えるとしばらくして従業員たちの休憩を回すため自らホールを回る。
パチンコ屋さんの従業員の勤務時間はとても長い。一部パートのおばさんを除いて社員スタッフは開店作業から夜中の閉店作業まで通しで働かなくてはならない。みんなかわりばんこに2~3時間の休憩をとる。そうしないと体が持たない。
最初に足が痛くなる。やがてその足は棒のようになり、閉店後部屋にあがって見てみるとパンパンにむくむ。店長はそのことをよく知っている。だから従業員の休憩回しは何をさておいても頑なに自分で行うのである。
一人でも休憩に入っているとき。その時に店長は必ずホールにいる。店長の仕事はみんなが帰った後も続く。
現金回収、ぱちんこの釘帳の整理、釘調整を終えて戸締りをして一日が終わるのである。とにかく何でも自分でする。僕はよく働く人だなあって感心しきりである。
あんなに太っているのに動きがチョー速い。店長はひょっとしたらスーパーマンかもしれない。店長はよく言っていた。
「うだつの上がらない奴らばっかりだけれど、それでもこいつらがいないと店は回らねえんだ」と。採用には店長なりの厳しい基準があるみたいだが一度入社した従業員の面倒見だけは、あの悪人面に似合わず中々だった。だからなのか、みんなは意外とまじめに働いていた。
従業員の中には自分の人生の大半をホール生活とともにしてきた、という人も珍しくなく、言うなれば人生を賭けながらホールを駆けていた。その人の名前は林さん。僕は入社後この林さんに大変お世話になり、そののち裏切られることになる。
つづく

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パチンコ屋に限らず中小零細の役職クラスの人たちは
平成初期の頃までは本当によく働いてました
私もそんな人たちを見て育ったので
ついつい真似事をしてしまうのだけれど
労基の立ち入りがどうのとかでまずは休憩休暇が優先で
残業休出含めれば当時の人たちの半分も働いてない
で、給料を上げろ社会保障を充実させろ言ってるんだから
なんというか不思議な国になったものだと思う
話は戻って、林さんの裏切りが気になります・・・
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