9月に入ってからは、テナントの各店の従業員とお客様の間では次のような会話が増えた。
客「次に行くお店は何処?」
従業員「渋谷の東急です」
客「必ずいくわね」
伊勢丹府中店採用の従業員のケース。
客「こんどは何処」
従業員「まだ決まってません。私は府中店採用なので、閉店したら次の働き先をみつけないと。この歳なので大変です」
地域に根ざした店が閉店する時、色々な問題点が炙り出される1つに、お客様と従業員との連帯感の崩壊がある。
閉店当日を見学したホール企業の面々は、閉店当日を見学する前に、約1カ月前から交わされる、お客様と従業員との会話の話題をレクチャーされた上で、午後から閉店まで、地下から最上階を見て回った。
上階にあった食器売り場のレジを見てびっくりする。
処分価格になった商品の精算のために80人以上の人が並んでいた。
7階の文具売り場の棚は、最終日を迎える前からセールを行っていたので、ほとんどの棚は空っぽ。
1階の靴売り場のレジにも長い長い行列が出来ていた。
最終日に何回も見かけた光景がある。
お客様が店内を撮影していた。
本来ならば、店内撮影は禁止だが、テナントの従業員や伊勢丹の社員でさえ注意はしない。
お客様の気持ちを察しているからだ。
ホール企業の社員はこんな光景を目撃して、心が揺さぶられたそうだ。
食品売場の女性従業員とお客様が名残惜しいように会話をしていた。
お客様は60歳代のご夫婦に見え、奥様は目に涙を溜め、従業員もハンカチで涙を拭って、ハグをしていた。
従業員と奥様が並んだ姿を旦那様がスマホで撮影。
それを見ていたホール企業社員は、咄嗟に旦那様に「撮りましょうか?」と申し出た。
「ありがとうございます、撮ってもらえますか?」
「はい!」。
ホール企業社員は3人一緒に映る写真を撮ってあげたそうだ。
後でご夫婦に話を聞くと、「あの従業員は、開店以来からの人で、いつも買い物をする時は、商品について相談したり、暇な時は雑談したりしていました」。
奥様が大好きな従業員なので、会話が楽しみで23年間通ったみたいなものだと教えてくれた。
従業員の次の就職先は決まっていないようで、これが今生の別れになるかも知れないと。
「あの従業員さんとの別れもつらいけれど、お店が無くなると、明日からどうしたらよいか、しばらくは悲しいわね」と奥様。
閉店時間19時が近くなると、同様の光景が増えてきた。
惣菜売場では、最後の値引きが始まる。
30%が半額になった。
半額シールを貼りながら泣いている従業員もいた。
見ているこっちも胸が張り裂けそうになった。
職場が無くなることを、実感したことが今までなかったホール企業社員の面々。
しかし、1万8000店あったホールが1万店を割った。同業者には職場や会社が無くなったケースは多々あるわけだ。
つづく

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