人気チェーン店の一番安いメニューはライバルを意識しているのか一様に390円だ。で、この3店舗でダントツに女性客比率が高かったのが丸亀製麺だった。
日高屋はおじさんたちで賑わう激安中華、富士そばは立ち食いスタイルなので、必然的に女性比率が高くなるのは丸亀製麺なのだが、女性比率が高かったうどん屋を独自に始めると決めたホールの社長がいる。なんとも簡単な理由だが、なぜ、飲食店を始めるかというと、閉店予定の1パチ専門店の業態転換だった。
うどん屋は、確かにラーメン屋ほどの難しさはない。出汁と麺が命だが、豚骨スープを作るような何十時間も煮込む手間暇はかからない。
うどん屋と決めたら、次は、市場調査開始だ。社長は2人の社員に白羽の矢を立て、うどん県でもある香川県へ10日間の出張を命じた。この2人は役職は店長だったが、店舗の相次ぐ閉店で店長の職を解かれていた。
10日間で香川県内のうどん店を食べ歩き、美味しいと思った店には、修行に行くことが予定されている。
2人共特別うどん好きでもなく、嫌々感が漂った。新規事業でうどん屋を始めたら、そっちに回されることは必至だからだ。修行に行かされることも気が重かった。
社長は特段うどんが好きというわけでもない。女性比率が多かったことが決め手になっただけである。市場調査へ行かされる元店長たちも、うどん愛もない。こんな好きでもないことをやって熱が入るわけもない。
好きこそものの上手なり、という諺がある。
人間は、好きなものに対してならば、興味を持って熱心に取り組める。上達するための工夫を自発的にでき、努力し続けることが苦にならないため、自然に物事の上達が早くなりやすいという意味がある。
その一方で真逆な話がある。
都内でオリジナル鞄店を営んでいるAさん(70代)は、一からオリジナル鞄を作る職人兼カバン店の経営者でもある。固定客を対象に10~20万円の鞄を製作・販売している。ランドセルまで作ってしまう技術を持っている。
ところが後継ぎがいないために、店の存続が危機に立たされている。31歳になる孫に「技術をすべて教える。資産も店もすべてやる」と言っているが、会社員の孫は「嫌!」と断り続けている。
後継ぎ問題に困っている情報を聞きつけて、修行させて欲しい、と申し出てきたのが九州のホールの2代目だった。革製品をこよなく愛していて、自分でも技術を身につけたいと思っていた。
Aさんが何より驚いたのは、2代目はホールを継げる状態でもなく、手仕舞いする状態にあったことだ。
「パチンコ屋はズッと儲かっているものとばかり思っていた。鞄職人になるぐらい儲からない商売になっていたとは」と驚きを隠さない。
社長も社員も好きでもない人たちがうどん屋を始めるのと、鞄職人になりたいホールの2代目が修行するのでは大きな開きが何年後かに分かりそうだ。

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