これはこの新聞舗に限った話ではなく、全国的に散見される話だ。詐欺罪で訴えれば、負けは確定だが、そんなことをするつもりは毛頭ない。とりあえず彼の関心は別のところにあった。
オーナーが注目したのは、新聞業界と自分が経営するパチンコ業界の類似性だ。
どちらの時代も流れに取り残され、年々その規模は縮小しつつある。 新聞業界は、読者を他紙から奪うために豪華景品を付けたり、半年間購読料を無料にしたり、と営業努力ができる。一方、パチンコ業界にはそのようなことはできず、営業努力と言えば出玉競争しかない。体力勝負のパチンコ業界の方が痛々しく感じられた。
この新聞舗への出資をきっかけに、オーナーは従業員に副業を認めた。ホールの人材を最大限に活かす目的もあり、新聞配達に興味のある従業員を募集したところ、数名が応募した。
オーナーの殺し文句は「健康になり、さらに13万円が貰える」だった。遅番の業務を終えた後、眠らずにそのまま朝刊配達を2時間ほど行う。ホールの給料は30代で30 〜34万円程度。13万円がプラスされると、貯金を増やしたい従業員にとっては朗報である。
ホールの休憩室には、かつて新聞各紙やスポーツ紙が並べられていた。しかし、コロナ禍による経費の見直しで新聞の契約を打ち切った。もともと、若者は新聞を読まない。高齢者ですらも今ではスマホでニュースをチェックしている時代だ。新聞が休憩室から消えても苦情は一切なかった。
新聞の購読を止めたホールが、なぜ新聞舗に出資したのか? オーナーの意図は謎めいている。
新聞配達を副業として従業員に提供することで、ホールの人材を活用するだけでなく、女性の健康増進やモチベーションアップにも繋がると考えた可能性がある。これにより、従業員の生活を支え、新聞業界も助けるという「一石二鳥」の効果を期待できないのかもしれない。
また、新聞業界は厳しい状況にあるもの、まだ一定の顧客層や流通ネットワークを持っており、パチンコ業界だけに頼るのはリスクが高いと感じていた可能性もある。
で、自分のビジネスに新たな収益源やネットワークをもたらし、リスクを分散したいという現実的な理由も考えられる。

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