1個つくるのも2個つくるのも一緒だから、とそのうち仲間の分まで作るようになった。ただでは悪いので、仲間は300円払っていた。
店内にはポットに入ったお茶を常備している。ランチタイムになるとみっちゃんたちは、紙コップにお茶を注いで、休憩室で弁当を広げる。なんともほのぼのとした光景だ。
弁当持参のみっちゃんが突然来店しなくなった。
ホールスタッフは、歳も歳だから病気にでもなったのかと気がかりだった。
病気は病気だった。
コロナに罹ったのだが、後遺症で味覚障害を起こしてしまった。全く味が分からなくなった。大好きなビールは、味のない炭酸水になってしまった。塩味も甘味も感じないものだから、弁当が作れなくなった。
夫に先立たれたみっちゃんは一人暮らしだった。味覚障害になって料理が作れなくなった母を案じて、近所に住む娘さんが料理を作るようになった。ホールへ持参する弁当と共に。
みっちゃんが1個作るのも2個作るのも手間は同じと言っていたように、娘さんも作る手間は同じとばかりに、「お世話になっている人にあげてね」と余分に作った。
この弁当がみっちゃんの弁当以上に美味しい、と評判になった。味もさることながら娘さんの作る弁当は見た目も彩がよく、食欲をそそるものがあった。

写真はイメージです。本文の弁当とは関係ありません
常連客からはすぐに「毎日作って欲しい」というリクエストが入る。この噂を聞きつけたホールスタッフも味見して、忽ち虜になってしまった。
さすがにただでは申し訳ない。常連さんは300円でわけてもらっていたが、スタッフは500円でわけてもらうことにした。今ではスタッフ4人が娘さんの弁当の腹を満たしている。
皆から特に評判がいいのは日替わりの煮物。副菜だが主菜にしてもいいぐらいのレベルらしい。
農家に嫁いでいる娘さんは、農繁期ともなると5人分の弁当を作って農作業に従事していたので、弁当づくりも手慣れたものだった。
スタッフからも美味しくてボリュームがあって大満足しているぐらいだから、これは弁当屋を開いてもいいんじゃないか、という話になった。
娘さんもやる気満々。保健所の許可を取ったらホールで本格的に販売する計画も立てている。

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すなおにうらやましいです。
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すばらしいな
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