恐る恐る部屋に入ってみる。存外主任の部屋は整理されていた。ダボシャツとステテコ姿の彼は私に座るように目くばせをする。無言のまま座ろうとする僕は一瞬背筋が凍りついた。モンモンが入ってる。しかもオオガメが入れている筋彫りではなく、全体に色がびっしりと、きれいに埋め込まれている、正真正銘の刺青である。
ダボシャツとステテコの裾の部分から見えるその色が僕の目を釘付けにした。足のくるぶしの上まで刺青が入っているのは全身にそれが行き渡っているのを容易に想像させる。怖いもの見たさで僕はその全体像を見てみたい衝動に駆られる。
「ん?驚いたか。まあ、これは半端もんがするもんだ。自慢できるほどのもんじゃあねえな」と言ったその顔はさも自慢げであった。
主任は缶に入ったショートピースを一本取り出し、左の親指の爪の上でトントンと音をたてながら煙草の葉を詰める。煙草の葉が下の方へと詰まっていくと上部に若干の余裕ができる。煙草を吸う際にその葉が唇につかないよう丁寧に余った紙で蓋をする。
腹巻からデュポンのライターをおもむろに取り出し、ピンという魅惑的な独特の音と一緒に火をつける。その流れに僕は完全に見入ってしまう。しぶい。まさにハードボイルドの真骨頂ではないか。僕は今、情けないほどに主任に入れこんでいた。
「今日のたこたこフィーバーが気になったか」
「あ、はい。なんであんな風になるのか見当もつきません。主任はどこであんなこと覚えたんですか。あれは僕にもできることなんですか」
矢継ぎ早に質問を浴びせる。
「まあ、蛇の道はへびでな。知ってる奴はみんな知ってるよ。俺みたいに中学を卒業してヤクザ稼業とぱちんこ屋を行ったり来たりするような輩にはなんでもないことよ」
涼しげな顔をしてショートピースを肺いっぱいに吸い込む。
「世の中の大半は本音と建前が交錯している。しかしこの世界は全てが本音だ。みんな生きていくのにきれいごとなんか言ってらんねえだろ。極道もぱちんこ屋も行くところがない奴がしょうがねえから頭下げてそこに収まるってだけよ。お前だって寝るところはあるし、おまんまも食わせてもらえるし正直言って楽な生活させてもらってんだろ。そりゃあ自分でアパート借りて、めし作ってな、せこせこ生活してたんじゃ金がいくらあっても足りねえだろうが。もっともそんな生活やってる奴に金持ちなんかいねえし、自分で自立して生活できる器量を持ってる奴がぱちんこ屋なんかで働くわけもねえけどな」
僕は納得してしまう。主任の話はどこかでカルティエの話とも通ずる部分があって、人間の悲哀みたいなものを感じるのだ。
「坂井くんよ。自分はまだこの業界浅いみたいだからひとつ言っておくけど、ぱちんこ業界は俺みたいな海千山千の奴らがひしめき合ってるのが現実だ。あんまり深く関わらねえほうがいいんじゃあねえのか。一回深みにはまるとなかなか抜け出せえよ。俺は一度この業界を抜けてからまた舞い戻ってくる奴らをごまんと見てきてる。なんでかは知んねえけどな」
たしかにそうである。冷静に考えれば考えるほどこの場は危険極まりない。あんな具合に7を人為的に揃えるなんていうテクニックもアンダーグラウンドの世界では別に驚く程のものではないのだろう。それをなんでもないことだと言い切るような男は危険人物であることは誰が見ても明白である。
しかし僕はなぜか危険な匂いがすればするほどそこに惹かれていくのである。自分にもこんなデンジャラスな要素が潜んでいようとは思ってもみなかった。多少の驚きや恐怖を感じつつも今の僕はそれそのものをドキドキしながら楽しんでいる。
今までの僕ならこういった話は絶対に聞いてはならず、即刻この場から立ち去るべきであると、拳を高々と掲げ犯罪撲滅のシュプレッヒコールを叫んでいたに違いない。しかし今日の僕は全く違う僕だった。
「でも主任。俺もこの業界で生きていくと決めたからにはやっぱりいろんなことを知らないと駄目だと思うんですよ。だからこれからも色々教えてもらえませんか」
ビビリながら精一杯の去勢を張って言い切ってしまった。内心「言ってしまった」という後悔がなくもなかったが、今は主任に根性無しのレッテルを貼られることの方が怖かった。それは不良が不良とつるんでいく為に必要な共通の秘密、そして連帯感。僕は今、それを欲しているのだ。
主任は何か言おうとして一旦思いとどまり、短くなったタバコを親指と中指でつまみ最後の一服を深く吸った。ショートピースの黄色い煙が目に入り額にしわを寄せる。
「わかった。わかったからそう凄むな。だけどこれから俺から教わることは絶対誰にも言うなよ。男が一度覚悟を決めたら二度と覆すな。バラしたらそんときは大変なことになるぞ。わかってるな」
低くドスの効いた声は僕に一切の後悔や否定をさせなかった。もうあとには引けない状況である。情けない話だが、やっぱりやめとけば良かったと後悔してしまった。が時すでに遅し。僕は主任のあくびを合図に自分の部屋に戻った。これからどうなるのか。不安と期待が交錯するデンジャラスゾーンへの入口、前夜祭である。
つづく

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儲かるかたちにする必要あったんですかね。
ユーザー多い時期は確かに億単位で儲かって
たんだろうけど。今は客も激減して、敵を
沢山つくって。社会から必要ともされてない。
パチンコを変えるってキャッチフレーズよく
みたけど悪い方向に変えたよな確実に。
パチンコ屋って今は全く社会に必要とされてない
と感じる。
ピンバック: 負け組
客にとっては、金儲けが出来る施設であるかどうかだけ。
客が金儲けが出来ないから激減するのみ。
パチンコを変えたければ、客が永久に金儲けが出来るかだけ。社会に必要とされたければ、客がその1台の生涯稼働において客のプラスになっているかだけ。根本的に客が勝てるのかだけ。それが、業界の社会貢献。
ピンバック: 匿名希望
そもそも業界に属する人間が必要悪だと名乗るのがおかしい
それを名乗るのは全く関係がない人間が、そういうものもあると言う理由で付けていいものだと
ピンバック: 毎度毎度感心する
僕がもしも入れ墨彫るとしたらそうだなあ宗ちゃんの宗ちゃんに彫るかな
昇り龍なんか良いですよね
女の子の目の前に突き出して「オラ!!! 目をひん剥いて良く見ろや」ってね
でもいざ彫る段になったら痛くて泣いちゃう
ヾ(。>﹏<。)ノ
では本題です
先日高級腕時計売り場へ行ってみたんですよ
意外と店内には若い男性客ばかり
人間観察じゃないけれどそんな男性客の足元から顔までチラ見すると良い靴履いてるしオシャレなお洋服も着ていて
うーん僕は明らかに場違いでしてね
その場から逃げるようにお店を後にしたのは言うまでもありませんでした
滞在時間正味30秒もなかったんじゃないかしら
ちなショーケースに飾られていた腕時計の値段が1800万円也
時計メーカーは不明というか正直ワカリマセンでした
安い時計でも数十万円
数百万円の時計がゴロゴロ飾られていましたね
僕もいつかは高級腕時計をはめて黄色のポルシェ助手席には母ちゃんを乗せて銀座の街をブイブイ言わせたーい
*⌒ω⌒*ンフ
Thin Lizzy – The Boys Are Back In Town(1976)♬
チャオ!
ピンバック: 宗ちゃんパチ&スロ歴43年Soかもね(*´з`)Zokkon命
で、帰宅時にスーパーで割引品を買う時に、金銭感覚を毎回リセットするそうです。。。
ピンバック: 換金禁止
フェラーリ等を購入する人はかなりの確率
で”実は犯罪者”みたいなのが有りますよ、
例え相手から寄ってきたとしても、まず
自分から好んで付き合いを持とうとは
思いませんね(^^;
板井君の「主体性の無さ」が何か非常に
面白悲しい感じが致しますねw
今の若者は極端化してしまっていますが
昔の若者と比べ「平均的に賢くなってい
る」と言うのが私の感想なのですが、
スマホ等のITのお蔭なんだと感じます。
主任の言う「ヤクザ稼業」がどういう
意味合いで言った言葉なのかは計りかね
ますが、モノホンのヤクザさんと言う物
は出たり入ったり出来る様な世界では
無い事など今の若者だったら直ぐに
察するでしょう。
板井君の今後が非常に気になります・・・
多分色々と失敗したりするのでしょうが?
実体験した失敗を糧に成長していくのか?
はたまた更に落ちて行くのか?
今時の若者は実体験の失敗を最小限に
避ける事が出来るのが強みなのだと
思いますね・・・
ピンバック: もと役員