パチンコ日報

ニュースにならないニュースの宝庫 

第1話 ぱちんこや ①

優介のホールデビュー

初出勤は緊張した。従業員もお客さんもみんな柄の悪い人たちばかり。僕は生きた心地がしなかった。

先輩の話は僕の不安を必要以上に駆り立てる。お客さんと従業員とのトラブルは日常茶飯事で、殴ったり殴られたりという事件も珍しくないという。従業員に至っては、社内の食事会で酔っ払って壮絶な喧嘩をしたり、給料をもらった翌日に出てこない従業員がいたりすると店長が社員寮に足を運びいちいち確認をしに行く。

当然部屋はモヌケの殻。こんなことに驚いていたらこの稼業は務まらない、と先輩は言う。ホールに出てみると実に様々なお客さんがいる。

一発でも多くの玉を得ようと不正行為に走る輩がいれば日がな一日ゆっくりと時間をつぶす人もいる。プロがいれば学生もいる。仕事をさぼるサラリーマンや買い物帰りのお母さんとその子供。よくよく観察するとその人間模様は面白い。

しかし、ぱちんこ勤めが社会人生活の始まりである僕にとってやっぱり不可解なことが多すぎる。ここに集まる人々は一言で言って大人としての良識に欠けている。他人の迷惑なんぞを顧みるはずもなく、ただひたすら自分の利益を追求する人たち。従業員もお客さんも本音で生きている。

『人間は順応性に富んだ動物である』と偉い先生が言ったか言わぬか知らないが恐怖と不安におののいていた僕がここの生活に慣れるのにさほど時間は必要ではなかった。

新人としての一番大切な心得。それは先輩の言うことやることを忠実に守ること。それを実行するには先輩のまねをするのが一番手っ取り早い。ひと月もたたないうちに僕はパンチパーマをしっかりとあて、黒いゴルフズボンに白いエナメルのベルトを巻き、わざとガニマタ歩行で、肩で風切って歩かずにはいられず、どこから見てもぱちんこやの店員として模範的かつ象徴的な姿にすっかり変身していた。僕の名前は坂井優介。23歳のぱちんこ人生はここから始まる。

つづく


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コメント[ コメント記入欄を表示 ]

  1. 宗ちゃんさんがいつもコメントされてる
    いわゆる80年代におけるパチンコ屋の
    お話ですね

    今とは違って当時は当時で何でもありの
    いい時代でした

    スーパーコンビを台を引っ張りまわして
    大当たりをさせた客のところへイカツイ
    店員さんがすぐ飛んで行って腕つかんで
    事務所に連れて行くところなんて何度も
    見かけました

    学生ながらに怖かったのを覚えてます

    ちゃーり  »このコメントに返信
  2. ピンバック: ちゃーり

  3. そのころから「やすだ」は大卒採用、社員寮はマンションの個室。
    給料も飛び抜けていた。
    名無し  »このコメントに返信
  4. ピンバック: 名無し

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