その理由は明快だ。新型コロナウイルスの流行を経て、都内のタクシー業界には訪日外国人観光客や出張ビジネスマンが戻り、需要が回復。努力次第で安定した収入が得られる環境が整ってきたからである。
Aさんは長らくパチンコ業界一筋だった。最初に就職したホール企業には10年以上勤めたが、経営難で廃業。次に選んだホールもまた同じように10年以上働いたが、再び廃業の憂き目にあった。気づけば50歳を過ぎており、同業への再就職も難しくなっていた。
そんな中で選んだのが、年齢制限が比較的緩やかなタクシー業界だった。
転職先であるタクシー会社には、パチンコ好きのドライバーが多かった。休憩室でAさんが元ホール勤務と知れると、「勝ち方を教えてくれ」と自然と話題の中心にいた。Aさんの必勝法は明快だった。
「店選びは、自宅から近いかどうかじゃなくて、客入りと出玉感。出している店を自分の足で探すこと。それが5〜6駅先でも探して回ること。私が勤めていたような中小ホールは、イベントでも設定6なんて入れない。よくて設定3、ほとんどは1だった」
この冷静かつ実務的なアドバイスが、妙に説得力をもって聞かれるのは、ホール現場の裏側を知るAさんならではだ。
Aさんは次第に、タクシードライバーという職業に「天職」との思いを抱くようになった。
法律で定められた休憩時間さえ惜しむようにして営業に出た。前職で得た知識を生かし、閉店間際のパチンコ店前で客待ちも行う。「勝った客は気分が良くて、遊びや飲みに行く。タクシーを使う確率が高いんです」とその経験則は今も生きている。
その結果、入社から1年も経たずに、ベテランドライバーと肩を並べる売上を記録するまでになった。
今年もまた猛暑の季節が到来した。都内では初乗り料金が500円という手頃さもあって、短距離でもタクシーを利用する“ワンメーター客”が急増している。1日に20人以上を乗せる日もあるという。
そんな中、Aさんはしみじみと語る。
「パチンコ業界にいたとき、500円なんて一瞬。1万円以上使って初めてお客様扱いしていた。でも今は違う。タクシーでは、500円でも立派なお客様。自分の手で稼いでいる実感があるし、働いた分だけ給料に返ってくる。ホール勤務時代は、忙しいフリをして暇を潰していたけれど、ドライバーは本当に時間が足りないくらい。生きてる実感があるんです」
一つの業界に長く身を置いたからこそ、違う業界の価値が見える。Aさんのように、第二の人生を前向きに切り開く人は、これからの時代、もっと増えていくのかもしれない。

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客としても就業者としても。
いいことなんかほとんどない。
Aさんのように人間らしさを取り戻しましょう。
ピンバック: 徳名人(笑)