「西田主任はなんでもできる。故障になった台もすぐに直すし、今までは故障になったら機械を止めてたじゃない。それがさあ、機械を止めたら売上が伸びないって絶対に故障の札なんか貼らないのよ。あたしもうびっくりよぉ。昨日だってお客さんが玉の弾きにばらつきがあるって文句言ったら、嫌な顔ひとつせずにチャッチャと直しちゃうんだからもうすごいよ。まっ、うちには西田主任くらい機械に詳しい人はいないもんね。みんなちょっとは見習ったらいいのよ」
連獅子はいつから奴の広報部長を任されたのかは知らないが、食事をしながらベラベラと一人勝手にまくし立てる。
「しかし本当にかっこいいわぁ、西田主任」
その勢いは止まることを知らない。
仕事ができることは確かに認める。しかしあの風体のどこがカッコいいのか僕にはどうしても理解しかねるのである。僕が怪訝そうな顔で連獅子の方を向くと
「坂井さんも主任を見ならったほうがいいわよ。やっぱり男はああでなくちゃね」
だめだ、彼女の目は完全に逝ってる。不愉快になるばかりの僕はまだ半分も食べていないご飯を残し「あいつは危ない奴なんだ。絶対」と吐き捨てるように言い放ち食堂をあとにした。
「素直じゃないんだからね、男のジェラシーもどうかしらねぇ」
聞えよがしに後ろから連獅子の声が明るく響く。僕は言いようのない、そしてこらえようのない感情を持て余す。階段を下り、駐車場でタバコを取り出す。やはり今日も苦いショートホープの煙を吐き出しながら連獅子の言葉を反芻しながら奴のことを考えてみる。
気分は悪いが確かに奴は仕事ができる。しかも普通のレベルじゃない。客のあしらい方もうまいし、特に僕たちが苦手とする機械の修理に関してはかなりのレベルを誇る。例えばヒコーキタイプの羽根の具合が悪いといっては、すぐさま精密ドライバーでその役物を取り外し後ろ側にあるソレノイドなる部分を交換する。そうすると羽の動きがスムーズになって今までギクシャクしていた羽根の動きが嘘のように収まる。その間わずか三分とかからない。まさに匠の技。
ある日のこと。用事があって事務所に入ると奴が電話をかけている。どうやら機械の部品発注をしている様子だ。びっくりしたのはメーカーに対するその追い込み方だ。
「新台が一ヶ月も経たないうちに不具合が出るようじゃせっかくの高い買い物に意味がない。メーカーとしてのお宅の信頼にも関わる問題だから今日中に必ず部品を持ってきてください」
件のバリトンで発せられる口調は相手に有無を言わせない断固としたものだった。その話術には学ぶべきところが多々ある。
「ついでにすごおく悪いんだけどさぁ、余分があったらさ、サービスで少し多めに持ってきてよ。恩にきますからァ」
今度は僕と最初に出会った時のハイトーンで一転する。僕には到底 真似できない芸当である。瞬時にして別な人間がここにもうひとり存在するかのような錯覚を覚える。そのものをねだるような時には、話のテンポを遅くしてできるだけ粘っこく、そして執拗に同じことを繰り返す。これもまた相手に拒否という選択肢を与えない。その能力はほとんど天才的といってもいいくらいだ。
機械台の修理、人に対する接し方や話し方。奴には欠点がない。というより付け入る隙を全く見せない。どれをとっても完璧なのである。僕はどこかで奴を見直し始めている自分を苦々しく思う。癪に障るのだが奴の行為行動にいちいち感心してしまう。
「なんだい、あんな奴。この店にいらねえよ」となんとか奴の存在を否定しようと声に出してみてもその独り言は僕の心に虚しく響くばかりであった。
昼の休憩時間も終わり、僕はだらだらとホールに入る。ホールは相変わらずの喧騒である。僕は奴がこの店に入ってから仕事に集中できない。ほとんど抜け殻状態の僕は自分の情けなさを認めつつ所定の持ち場につく。と、奴がニヤニヤしながら近づいてきた。
「さ・か・い・く・ん、今日はいいこと教えてあげるよ」
「な、なんですか」
僕の質問に答えようともしない奴は、鍵の束をチャラチャラさせ、口笛を吹きながらヨンキョーのタコタコフィーバーズのコーナーへ進んでいく。
「今から面白いもの見せてやるよ。ふふふ。だから君は22番台のドラムリールを見てなさいね」
言うが早いか奴は22番台のちょうど裏側に回った。そしてその台の真後ろの台を開けたようである。機械の裏から奴の声が聞こえる。
「よく見とけよ」と今度は凄みを効かせた声を放つと何かをし始めた。何かをし始めたというのは、目の前にある22番台のドラムリールがゆっくりとひとつづつ緩やかに動き始めたのをこの目で確認できたからだ。間違いなく裏でなにかしている。
このドラムリールは前述したようにスターツチャッカーに玉が入るとリールが回転し、絵柄がランダムに停止するようにできている。そしてその停止状態で7・7・7と7が3つ揃うとフィーバーするのである。後で知ったことだがこの機械はなぜか裏側から細い棒状のものであれば容易にドラムリールの図柄を人為的に変更させることができる。
僕はこの時点でそのことを全く知らなかった。まさに今日初めて知ったのである。しかし奴が僕に見せたかったのはそれではなかった。裏でバシャン、と機械台を閉める音が聞こえると奴はニヤニヤしながら再び僕の隣に来た。目の前にあるリールの図柄はタコに似た宇宙人の絵が三つ揃っている。
「ここからがお楽しみ。へへへ」
と薄気味悪い笑いのあとで奴は台のガラスを開ける。そしてスタートチャッカーに玉を一つ入れるとパンとガラスを閉めた。
気がつくと周りには野次馬が集まり始めている。みんなはその行く末に興味津の面持ち。奴は涼しげな表情で自分は何もしていません、を決め込む。リールはが左側から停止をはじめる。7・7・7!信じられない光景がいま現実となって僕たちの目を丸くさせる。
「すげー、7が揃っちまったぜ。なんだいこりゃあ」
「おお、ほんとだぜ」
「何だ、何だ、何があったんだ」
方々から驚嘆の声が上がる。僕は自分の子の目を疑った。みんなは7が揃った瞬間しか見ていないから単純に喜んでいるが僕はその一部始終を見ているがゆえに驚きより恐ろしさの方が先に立った。コイツは一体何者なんだ。どす黒い恐怖がまたぞろその太い首を持ち上げてきた。

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ピンバック: 猫オヤジ
現金サンドからの信号と島端の金庫メーターからの信号の2つにて管理しておりましたが、釣り銭の合致は金庫メーターにて判定していましたね。
島毎に数百円ですがサンドと金庫の誤差がでてしまって居ました(^^;
スーパーコンビは知りませんが同じ三共さんのスターライトにて口止め料として悪い店員さんに裏からチューリップを開けて貰っていましたよm(__)m
打って居ると当たりチューリップの奥からピアノ線が見えるんですが何とも間抜けな光景でしたねw
内輪では「ツンツン」と呼んでいましたよw
後日、裏パックの穴が見つかり大騒ぎになり、しっかり台鍵をパクった後にドロンしましたよその店員w
ピンバック: もと役員
現金サンドの横領は誤差が出ても売上集計、翌日のタネ銭を作る人が同一人物ならバレ無いですね。
スーパーコンビの裏からチューリップを開かすのはスターライトに酷似しています。裏パックの隙間、または穴を開けて突き棒でグリッとやるだけでした。西陣「ジェットライン」でも可能でした。
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