ところが、社長から待ったがかかった。
「仕事内容、仕事量も以前と全く同じ条件で、給料は倍にする」と引き止めに入った。600万円の年収が1200万円になるので、辞める理由がなくなった。
定年延長すると一般的には役職も取れ、給料は半分に下がるのだが、真逆の高待遇だ。
理由は優秀な整備士不足だった。
最近の若者はクルマにも興味を示さないため、整備士のなり手も少なく、技術を要する整備士不足は業界の存続の危機でもある。
特に工場長も経験したAさんのようなベテラン整備士が、一人欠けるだけでも工場としては、戦力不足になることは痛手だった。それが破格の厚遇待遇での引き止め策だった。
ちなみに整備工場は従業員25名ほど。破格の厚遇は社員には漏らすなと口止めされている。
ただし、1200万円の厚遇には裏があった。
社長からAさんに課せられたのが、整備士のヘッドハンティングだった。求人広告を出しても整備士は簡単には集まらないのが実情だ。
ヘッドハンティングの使命を与えられたAさんは、あることを思い出した。
行きつけのパチンコ店で顔を合わせるようになった常連客の1人に自動車整備士がいた。常連客同氏は、名前は分かるが住んでいるところも電話番号も知らない。
ホールでその人に直接交渉するしかない。
で、整備士のBさんは56歳だった。現在の年収を聞いてみると450万円だった。100万円上乗せすることを条件に出したところで、二つ返事で転職してもらうことができた。
Bさんの整備工場は、従業員は8名。全員がパチンコをしていることが分かった。Aさんの工場でもほぼ全員がパチンコ好き。攻略誌全盛の頃は休憩室には何冊もの攻略誌があったほどだ。
ただ、今はみんな1パチ派。整備士の給料では4パチは打てない。おカネより、パチンコそのものを楽しみたい人は0.5パチを打っている、という。
なぜ、整備士がパチンコ好きか?
Aさんがこの疑問の謎を解き明かす。
地方はクルマ社会で通勤は当然マイカー。道交法が緩い頃は皆、仕事帰りに一杯飲んで酒気帯び運転で帰ったりしていたが、飲酒運転が厳しくなると、楽しみが酒からパチンコへ移行したようだ。
整備工場でも始業前にアルコールチェックがある。客のクルマを送り届ける時にアルコールが残っていては運転できないし、二日酔いの体調で整備させないためでもある。
Aさんの事務所の壁には、ホールからもらったカレンダーが掲げられていた。いかにもホールのカレンダーらしく、特定日は色を付けていた。その特定日を楽しみにカレンダーを眺めていた。
ところが経費削減の一環か、カレンダーの配布を止めている。
「カレンダーはホール名も入っているので、店名は自然に頭に刷り込まれていたのに、中止したのはもったいない」とAさん。
特定日効果もあるようなので、カレンダーは復活してみては?
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