「なんかあ、店長と西田主任グルだったんだって。二人で組んで結構売上ごまかしていたらしいよ。それからサクラ使って、釘の空いた台を教えて出た玉をそのサクラが両替したあとで分け前を分配したりとかさ。いったい誰を信じたらいいのかしらねえ。あの西田って言うのもなんか胡散臭かったわよねえ」
連獅子の話はこのあとも延々と続くのだが、そのほとんどが僕の耳を素通りしていった。カルティエと西田がグル? サクラ? 売上をごまかした? 一体何の話だろう。僕にはそこだけが頭の中で止まったまま動かない。それに社長は一千六百万が無くなったといっていた。それはまた何の話なんだ。僕はぱちんこ台の役物に厚紙をはさんだことでこの世の終わりを覚悟していたのにこの話は僕の思考を大いに混乱させた。
カルティエは風体こそあんなで、口も悪いが心は真っ直ぐで社員思いの店長だ。そんな人がみんなを欺いて悪さをするわけがない。連獅子の言葉には無理がある。みんなでまかせに決まっている。きっとそうだ。そうに違いない。僕は彼女をきっと睨みつけ食堂をでるべく乱暴に席を立った。
「昨日もさ、夜中二人がセブンイレブンの近くで会ってさ、西田が車の中から紙袋を店長に渡していたのを関口さんが見たって言ってたよ。分け前の分配タイムだったんじゃない」
ニヤニヤしながら連獅子が言った。立ち止まったまま動けない僕を食堂に上がってきた木村くんと関口さんがここに留まるように促す。事実は小説より奇なり。これからの会話は更に想定外のものだった。
「店長と西田は元々顔見知りだったって知ってた?」
表情を変えずに関口さんが驚きの事実を淡々と明かす。
「関口さん、あんたなんで今までそのこと黙っていたのよ! あたしたちには何も言ってなかったじゃない。しかもその話一体どこから聞いたのよ。あたしは聞いてないわ。なんか胡散臭いわね」
「おれ、西田の面接の時に倉庫にいたんだ。ほら、事務所の話って倉庫にいたら筒抜けじゃん。店長は俺が倉庫にいることは知ってたけど西田は知らないわけじゃん。だから西田は言いたい放題よ。凄かったぜ、西田が店長を脅す時の口調」
「店長が脅かされたんすか」
木村くんが口を挟む。
「ああ、なんでも店長の今の奥さんは店長が前に勤めていた店の部長の奥さんで二人は駆け落ちでここまで逃げてきたみたいなこと言ってたよ」
「ええええええ!」
話を聞いていた僕たち三人は仰天の叫び声を上げる。
「でもって西田は未だにそこの部長と連絡を取り合っている仲で、西田はここの場所を教えてもいいんだぞっていきまいていたんよね。店長はかなり慌てている様子でそれだけは勘弁してくれって何回も言ってた。で、結局その脅しが効いて主任採用になったわけよ」
「ねえ、何回も言うけどさあ、なんでその話を今まで黙ってたのよ。うちら仲間じゃないの」
情報屋の連獅子としては譲れない線らしい。
「仲間? だったら松本さんだってあっしらに言うことがあるんじゃねえですかい」
今まで黙っていた木村くんが突如として会話に加わる。
「あたし? あたしは何もないわよ。あったら言ってるし。だいいちみんなを差し置いて秘密ごとなんか作るわけないじゃない。失礼しちゃうわね」
「ホテルローマ」
木村くんが意味不明な言葉を口にした。とたんに連獅子の顔が真っ赤になる。ホテルローマはお店から歩いて5分ほどにある連れ込み旅館である。ホテルとは名ばかりで今にもお化けができそうな古ぼけた旅館だ。木村くんは勝ち誇った顔でまくし立てる。
「あっしは松本さんと奴がホテルに入っていくのをしっかりとこの目で見たでげす。一応社内恋愛は禁止のはずですがねえ」
「えーーーー!」
今度は僕と関口さんの二人が絶叫する。
「ちょっとお、木村くんそこまで言わなくてもいいじゃない」
「あ、涙が出てない。松本さん嘘泣きでしょ。松田聖子でしょ」
「ひー!」
連獅子は食堂から逃げ出した。よっぽど恥ずかしかったのであろう。恥ずかしさが高じてやけくそになって木村のバカヤロー、デブーと喚き散らしながら階段をものすごい勢いで駆け下りていく音がここにいてもよく聞こえた。ドンドンドン!ガシャガシャーン!
「ヒー!痛あーーい」
しらけた三人は階段から転げ落ちた連獅子を気遣う様子もなくただため息を漏らしただけだった。
つづく

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西田主任は業界誌に「尋ね人」出したのかな。笑
ピンバック: 猫オヤジ
業界誌の「尋ね人」のページ有りましたねw
猫オヤジ様の書き込みが無ければたぶん一生
思いだしませんでしたよ(^-^)
平成5年頃過ぎだったか?
大手の動きが活発になったり遊技環境の改善
に意識が行く様になったり理由は様々。
老舗店舗のリニューアルがあちらコチラで
相次いだ時に集客力抜群の老舗店舗が何故か
閉店して行った記憶が有るんですよ。
同時は不思議で仕方無かったのですが、
今になって思うと常態化していた「売上除外」
が仇と成り、資金は持っていても何を出来ない
様な状況に陥ってしまった上での閉店だったの
では無いかと感じますね(^^;
今回はヤニッこい内輪の内情が出てきたり、
本当に次回が待ち遠しいですね(*´ω`*)
ピンバック: もと役員
こんにちは。平成5年頃は一発台が禁止となり「バレリーナ」「タイムショック」などへ移行。セブン機も2400発規制の新要件へ変わった頃でした。確かに同時期は私の周辺でも廃業、新規開店、全面改装「島を倒す事が信のリニューアル」など多かったです。機械代が安いこの時代に潰れた店は経営者のセンスが無かったと言わざるを得ません。
「尋ね人」見る度に「持ち逃げ犯」かな?「駆け落ち組」かな?思っていました。そんな私も尋ね人に掲載されましたが…笑
ピンバック: 猫オヤジ
お察しの通りホールは廃業しても「売上除外」などのB勘「裏金」、役員報酬を高額にしていて個人資産はたんまり持っている方も多かったと思います。
私は平成5年の頃は都内の「パレス」と言う店「300台で年商40億」で主任でした。オーナー、専務の指示で毎日売上除外30万を数年していました。
コーラ自販機の集金、釣銭補充は私の担当で毎週1万円を「売上除外」してお小遣いにしていました。オーナーから30万除外の報酬と言われていました。
ピンバック: 猫オヤジ
私が平の時に配属された店舗はパチンコ270台、スロット75台の年商60億の店だったので飲料の自販機だけで一般従業
員の人件費が2名ほど出ていましたね。
確か月2万円位の手当てにて自販機担当の係が居たのですが
当時平だった私から見ても何かと問題の様な物しか感じ
られず、店舗責任者に上がってから会社に談判してメーカー
フルメンテに変えて貰った記憶が有りますね。
このブログを読んで居なければ多分一生思い出す様な事など
無かったであろう昔の色んな事を思い出しますねw
ピンバック: もと役員
簡単にできる。民間のギャンブル。
釘はいじるの駄目だが綺麗事で教えるの
やめない業界。ルールなんか無いよね。
ピンバック: 負け組
風営法を逸脱していたのである。
言うなれば、駅前や繁華街などに堂々と裏カジノが長年存在していたようなものである。
管理する警察も絡んでいたようで、厳罰もなく各メーカーはのうのうと今でも経営を続けている。
過去の検定取り消し事例と比べてみても、この長年の検定機と異なる遊技機出荷問題はかなりの悪質さがあるわけだが、結果的にメーカーからすれば厳罰どころか、入替特需により一時的だとしても機械が売れたという馬鹿げた結果になったのである。
愚策とはいえその問題を回避するために開発されたパチンコの設定付きも、遵法精神の欠片も無くホールは違法改造釘曲げを行い続けた。
これらからもわかるように、今後もなにか不都合な壁の存在があれば、躊躇なく法を逸脱するだろう。
客も客で考えられる頭を持っていない人が多いため、自分らが勝ちやすくなるなら、なんて自分本位な考えで同調する輩もいる。
パチンコはギャンブルだ。
その性質上多少はグレーでもいいのかもしれない。
が、この業界はあまりにも糞にまみれている。
真っ白になれとは言わないが、もうすこし自助努力とか自浄作用を身につけてほしい。
金儲けをするためには違法行為を、という低俗な考えが蔓延りすぎている。
ピンバック: 名無し
だからこそそれらが潰されると現状の様に簡単に衰退する
多分間違ってたんでしょう、最初から何もかもが
ピンバック: 毎度毎度感心する