定年退職してブラブラしていたAさんは、マイホールではないホールで打っていた。
ヘソ釘に異変を感じた。左側の釘が玉が当たるたびにちょっと動くのが分かった。やがて釘が折れた。従業員を呼ぼうかと思ったが、Aさんは遊技を継続する。左の釘がなくなったことでスタートに入りやすくなったからだ。
バレるまで打ってやろうと腹をくくった。釘折れの状態で、時間にして20分ぐらい打っていた。その間大当たりすることはなかった。
その時だった。
「お客さん、お客さん、釘が折れていますよね」とスタッフから声を掛けられた。
ついにバレたが、Aさんは「今日はコンタクトを忘れてね、よく見えないんだ」とスッとぼけた。
「でも、見れば分かりますよね」
「液晶に集中していたので気が付かなかった」
Aさんの白を切る態度に業を煮やしたスタッフは「事務所まで来てもらえますか」と促した。
「事務所は嫌だよ。昔はヤクザがいてボコボコにされた話を聞いたことがある。恐ろしくて行けないよ」と抵抗した。
すると店長と思われる責任者が出てきた。
「釘が折れたことに気づかないわけないでしょ」
「じゃ、気づいていないことを証明しろよ」
押し問答となった。
やおら、Aさんが「じゃ、警察呼ぶ」と言ってズボンのポケットからスマホを取り出して110番しようとした。
「まあまあ」と店長はAをなだめたが、すぐに「出玉を没収します」と反転攻勢に出た。
上皿に玉が残っていた程度の出玉だった。
Aさんはそれを打って店を出ようとしたが、店長からは「出禁」を喰らった。
春先に定年退職したAさんだが、前職の会社では重要なポストなどへ昇級する時は、独特の“試験”があった。これはその会社の社長が編み出した方法で、人事担当者が何気なく昇格予定者を飲み会に誘う。
1対1では怪しまれるので、カモフラージュのために5~6人を誘う。
酒が回ってきたころに、人事担当が「小学校の頃、机に落書きや彫刻刀で彫ったりしたよね」とさりげなく昔話を振る。
その時「あ~やってましたね」と昇格候補者が口を滑らそうものなら、即刻内申はアウトになる。小学生の頃とは言え、公共の備品に傷つけるような人物は不適合の烙印を押される。
他には同じく小学生の頃、水泳に行く時は家から水着を着るか、プールで着替えるかを聞いて、家から水着に着替える人は、面倒くさがり屋でコツコツする仕事には向いていないと判断される。
定年退職した後でその独特の人事査定を聞かされたAさんだが、このパチンコ店の一件が現職時代に会社にバレたら一生平社員で終わるところだった。
理由はウソをつく。

※コメントには必ずハンドルネームを入れてください。匿名は承認しません。コメントがエントリーになる場合もあります。