しかし、今は2店舗のみの運営。そのうち1店舗はすでに閉店し、再開のメドは立っていない。残る営業中のホールは1パチ専門店で、利益もトントン。上層部も「閉店は時間の問題」と口を揃える。
Aさんは、これ以上未来を描くことができなくなっていた。
一番稼いでいた時は、年収800万円近くを得ていた。繁忙期にはホールを駆け回り、スタッフを指揮し、経営の一端を担う責任感に誇りを感じていた。
しかし、市場縮小の波は容赦なく、売上も給与も右肩下がり。気づけば年収は400万円を切り、生活は急速に不安定化していった。それが原因で夫婦関係も悪化し、ついに離婚という結果に至った。
身軽になったAさんは決断した。パチンコ業界に見切りをつけ、東京でタクシードライバーとして第二の人生を歩むことにした。タクシー業界も楽な仕事ではないが、寮が完備されていた。
東京のタクシー業界はインバウンド需要も相まって、多忙を極めている。自分が頑張った成果がそのまま収入に反映する世界は魅力的に映った。こうしてまた一人、パチンコ業界から別業種への転職者が増えた。
業界が抱える構造的な問題
今回のケースは特別ではない。全国的にホール閉店は相次ぎ、働き盛りの店長や社員が転職市場へ流出している。理由は単純で、「将来への希望が描けない」からだ。
パチンコ業界は長年、射幸性と規制のはざまで翻弄されてきた。かつては出玉競争で客を集めることができたが、限られたパイの奪い合いで中小は淘汰されると共に、サラリーマン客を見かけなくなった。一方で若年層の新規ファンは専業化の傾向にある。
結果として、高齢化した常連客に依存する構造となり、閉店スパイラルを抜け出せない。
人材の流出も深刻だ。ホールスタッフや店長は接客・営業・マネジメントと幅広いスキルを持っているにもかかわらず、その労働環境は不安定で評価も低い。給与水準が下がれば、優秀な人材ほど他業種へ転職してしまうのは当然の流れだ。
改善への糸口はあるのか
では、業界はどうすれば人材流出を止められるのか。
第一に必要なのは「未来像の提示」である。
従業員が働き続けたいと思うには、業界自体に持続可能性があることを示さなければならない。たとえば、遊技機依存からの脱却を図り、エンターテインメント複合施設としての進化を本気で考えるべきだろう。地域交流スペースとの融合など、新たな集客モデルを開発することが求められる。
第二に、労働環境と待遇の改善が不可欠だ。給与はもちろん、勤務シフトや休日制度、キャリアパスの明確化など、従業員が「この業界で働き続けてもいい」と感じられる仕組みを整える必要がある。これを怠れば、人材はますます外へ流れ出す。
第三に、社会的イメージの刷新だ。パチンコ業界は依然として「グレーな産業」という偏見にさらされている。このままでは若者が就職先として選ばないのも当然である。透明性のある経営、地域社会への積極的な貢献、ギャンブル依存症対策の徹底といった努力が、長期的には人材確保につながる。
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44歳の店長がタクシードライバーへ転身するという事例は、個人の人生選択であると同時に、業界全体が直面している危機の縮図でもある。ホール閉店の連鎖と人材流出が止まらなければ、パチンコ業界はますます縮小していくだろう。
「どうすれば残ってもらえるか」を本気で考え、待遇改善と未来志向のビジョンを示さない限り、第二の人生を求めて去る人材は後を絶たない。
パチンコ業界が再生するかどうかは、働く人の人生に責任を持てるかどうかにかかっている。
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