この案件の話が最初に持ち込まれたのは、神奈川県内で数店舗を経営する中堅ホール企業だった。実はこの企業、過去に一度だけ都内進出を果たしている。しかし、その時は結果が出せずに撤退を余儀なくされていた。だからこそ、この物件は彼らにとって「リベンジ案件」ともいえる位置づけだった。
売主の条件を確認しつつ、買い手側はまず覆面調査を実施。現場のオペレーション、接客、稼働状況を細かく観察した。その結果、従業員の働きぶりに問題ありとの判断が下された。
「このスタッフでは立て直しは難しい。全員入れ替えたい」と買い手側は結論づける。
売主にその意向を伝えると、さすがに難色を示されるかと思いきや、意外にも「それでも構わない」との回答。従業員付きという条件にこだわりはなかったようだ。
ここで、買い手のオーナーは大きな決断を迫られる。立地や規模は魅力的、資金も銀行の融資が確保できる見通しが立っている。しかし、どこか踏み切れない自分がいた。すると、家族の中から「占いで決めたらどうか」という声が上がる。
勧めたのは、オーナーの息子の嫁。彼女が長年信頼を寄せる占い師がいた。息子も「これまでの判断がことごとく当たっている」と太鼓判を押す。最終的に、オーナーはその占い師に相談することにした。
数日後、出てきた占いの結果は、予想外の内容だった。
「このホールの地下には、未発掘の遺跡が眠っている。将来的に建て替えや大規模工事を行う際、その遺跡が問題になる。発掘費用だけでなく、行政の手続きで工期も大幅に遅れる可能性がある」
もちろん、実際に掘ってみなければ真偽はわからない。しかし、「掘って確かめる手段もない今、リスクは取れない」とオーナーは判断。最終的に、この買収話は白紙に戻された。
銀行からの融資も内定し、条件面でも折り合いがつきかけていた20億円の案件。だが、すべては一人の占い師のひと言で幕を閉じた。
ビジネスの世界では、時にロジックだけでは動かない「決断の理由」がある。そしてそれが、案外バカにできない力を持つこともあるのだ。
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