ある日、農業資材を扱う会社の営業マンが、ぽつりと漏らした。
「パチンコ屋さんが大量に農業資材を買って行ったんですよ。どうも農業に進出するらしいんです」
パチンコと農業? どう考えても結びつかないこの二つの業界が、いったいどうして手を取り合うことになったのか。
その舞台となったのは群馬県。関東の中でも広大な土地が広がるこの地域に、「パチンコホールになるはずだった場所」があった。
時を遡ること20年以上前。
そのホール企業は、ある一大計画を打ち立てた。1万坪もの広大な土地を購入し、そこにホールと温浴施設を併設した複合施設を作るというものだ。温泉地としても知られる群馬ならではの発想で、パチンコでヒートアップしたお客がそのまま温泉でリラックスできる、まさに「遊びと癒やしの融合」だった。
計画は順調に進むかに思えた。温泉の掘削工事にも着手し、「この地にも素晴らしい湯が湧くだろう」と誰もが期待していた。
ところが——。出てきたのは、使い物にならない水だった。
水質検査を重ねるも、入浴には適さない成分が含まれている。加えて、温泉の湯量も十分とは言えない。さらに追い打ちをかけるように、掘削費用が1億5000万円に達した時点で、会社は決断を迫られる。
こうして、壮大な複合施設計画は、温泉の掘削失敗とともに消え去った。
複合施設計画が頓挫したとはいえ、1万坪の土地はそこに残り続ける。とはいえ、田舎の土地などそう簡単に売れるものではなかった。
「とりあえず、いつか使える日が来るまで持っておこう」
そう考え、ホール単独でのオープンも視野に入れながら様子を見守ることにした。
しかし、時代は流れ、パチンコ市場はどんどん冷え込んでいった。規制強化、客離れ、ホールの閉店ラッシュ……。
気がつけば、土地はただの「塩漬け不動産」と化していた。
20年以上の月日が経ち、「どうにかこの土地を有効活用できないか」と社内で話し合われるようになった。
そんな中、あるコンサルタントが紹介された。「農業コンサルタント」なる肩書きを持つ男だった。
「食料自給率の低い日本では、これからの時代、農業がますます重要になります。特に、土地を持て余しているのであれば、農業は理想的な選択肢ですよ」
農業……?ホール経営しか知らない彼らにとっては、まったく未知の世界だった。しかし、言われてみれば確かに筋が通っている。
「農業なら、遊技機の規制も関係ないし、将来不安もないぞ!」
かくして、ホール経営者たちは、新たな道を歩み始めることとなった。
こうして、大量の農業資材を仕入れた彼らは、本格的に農業へと乗り出すことになった。
LED照明を駆使した室内水耕栽培農場。さらには、ホールで培った「データ分析力」を活かし、作物の生育データを細かく記録しながら、効率的な農業を展開していく予定だ。
1億5000万円を投じた温泉掘削の傷跡は、農地に実る作物によって癒されるのか? 時代の荒波を乗り越えようとする彼らの挑戦は、今まさに始まったばかりである。
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