その最中、スーツ姿の中年サラリーマン2人が、何食わぬ顔でスマホの画角に入り込んできた。撮影は止まり、3人組のうちの1人が近づいて、丁寧にこう声を掛けた。
「すみません、動画を撮影していまして、写り込んでいるので少し移動してもらえませんか?」
しかし返ってきたのは、想定外の剣幕だった。
「何が邪魔だ!」
事情を説明しても、中年サラリーマンの怒りは収まらない。むしろ語気は荒くなり、周囲の空気が一気に張り詰めた。異変に気づいた残りの2人が駆け寄ったことで、事態はさらに悪化する。
中年サラリーマンは缶ビールを手にしていた。酒の勢いもあったのだろう。「お前らの勤め先はどこだ。言わないなら尾行して家を突き止めてやる」と、完全に絡み酒の様相を呈し始めた。
その時、3人組の1人のスマホに着信が入った。会話の断片から、彼らがホール関係者であることが伝わってくる。状況を察した業界関係者は、思わず助け舟を出した。
「君たち、ホールの人でしょ?」
この一言に、中年サラリーマンは「なんだ、ボーイか」と的外れな理解を示したが、「いや、パチンコ屋ですよ」と訂正されると、ボルテージはさらに上がった。
「まあまあ、ここは公共の場ですし、ちょっとした行き違いですよ。若い子たちもお願いしただけですから」
「何だお前は」と食ってかかる中年サラリーマンに対し、業界関係者は感情的にならず、淡々と続けた。
「お互い気分を害するだけです。ここで揉めても何も得はありませんよ。私に免じて許してやってください」とその場を収めた。
一件落着後、改めて3人組と話をすると、彼らの勤め先は都内でも有力とされるホールだった。ダンスは業務とは無関係で、純粋な趣味だという。窮地を救ってくれた相手が同じ業界の人間だと分かると、彼らは一気に心を開き、胸の内を語り始めた。
年齢は20代が2人、40代が1人。共通していたのは将来への不安だった。都内の有力ホールに勤めていても、業界全体が斜陽であるという認識は共有されている。先行きが明るいとは、とても言えない。
話題は自然と転職の話に移った。
IターンやUターンで地方の同業他社に移った人は「ほぼ全員が後悔している」こと。都内のタクシー運転手は、ホール勤務より稼げるケースが珍しくないこと。飲食業は厳しいが、腕に職をつけられるという現実的な選択肢であること――。
この話にオチはない。ただ、公園の片隅で起きた小さなトラブルと、その後の会話は、いま業界で働く人たちの不安と迷いを、ありのままに映し出していた。
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