仕事で知り合ったW君からの便りが会社に届いたのは今年の初め。東京拘置所から差し出されたものだった。
去年8月、大麻を栽培して逮捕され、現在は収監の身。懲役1年10月の判決が下りているそうだ。
W君はプロミュージシャンとしてバンド活動をしていた。パンク系に近いもので、演奏ともにファンが暴れ出す、という札付きでバンドで、会場を貸してくれるところがどんどんなくなっていったそうだ。日本よりも海外での評価が高く、ヨーロッパの一部地域で人気があったらしい。
解散後、Vシネマの映画音楽の作曲をしながら食い繋いでいた。
知り合ったきっかけは、W君がパチンコ店のオリジナル音楽の作曲を手掛けるようになったことからだった。それを記事で取りあげるために取材した。もう6年ほど前のことだ。
都内の自宅にはギターやシンセサイザー、Macが所せましと並び、コンピュータで全ての楽器の音造りもしているのだという。
記事の反響はあった。実際に何店舗かの仕事も受注した。
祝杯代わりにW君の彼女も引き連れて飲みに行った。カラオケは嫌いで一度も行ったことがなかったそうだか、ボーカルの血が騒ぐのか、ノリノリでシャウトしまくっていた。その後も東京へ出張するたびに時間が合えば、何度か飲むようになった。仕事は順調で、お礼に広告が出したい、というので2回ほど出稿してもらった。
1年ほど前、久し振りに企画の件で電話で話したら結婚するつもりだった彼女とも別れ、作曲の仕事もしていない、という。体を鍛えるために武道に凝っている、という。なんか違和感を感じた。
その後のW君からの音信が拘置所からの便りだった。
文面に悲壮感はない。3畳の独房で自分を見つめ直し、この体験を未来に福を得るためのカルマとしたい、としたためていた。獄中を精神修養の場とする決意が語られていた。
コメント[ コメント記入欄を表示 ]
コメントする