「落とし物を交番に届けたら、どんな些細な物でも名前と連絡先はちゃんと伝えなさいね」と諭すおばあちゃんは、自分の体験談を回想し始めた。
ある日、道端にレジ袋が落ちていた。中にはフルーツの缶詰が3つ入っていた。年金暮らしで毎日の生活もやっとの中、おばあちゃんはその袋を拾い上げ、しばらく迷ったという。
「このまま持って帰れば食費が浮くかもしれない……」
そんな誘惑もあったが、最終的には交番へ届け出た。半年後、落とし主が現れなければ、晴れて自分の物になる——そう思ってのことだった。
届け出の際、おばあちゃんは名前と住所、電話番号をきちんと書いた。
ところが、意外にも数日後、落とし主が見つかり、連絡が入った。
「祖父が最後にくれた大切な缶詰だったんです。心から感謝しています」
それは、急逝した祖父が買ってくれた、本人にとって思い出の品だったのだ。
お礼がしたいという申し出に、おばあちゃんは自分が生活に困っていることを打ち明けた。
「実は、うちは町工場を経営していて、今ちょうど人手が欲しいんです。良ければ働いてもらえませんか?」
その申し出を受けて、おばあちゃんは雑用係として働くことになり、少しずつ生活が安定していったという。
たった一つの正直な行動が、思わぬ縁をつなぎ、新たな人生の扉を開いたのだった。
それから年月が流れ、今度はそのホール関係者が、街中でミッキーとミニーのキーホルダーを拾った。ふと、おばあちゃんの教えを思い出し、交番に届ける際に自分の名前と連絡先も伝えた。
数日後、落とし主から連絡が来た。
そのキーホルダーは、水難事故で亡くなった子供の形見だった。持ち主にとって、何よりも大切な思い出の品だったという。
落とし主は深く感謝し、「これは気持ちです」と10万円を差し出した。最初は固辞したが、ありがたく頂いた。中には手紙が添えられていた。
《もし何かお困りごとがあれば、遠慮なくご相談ください》
その後、ホールが閉店し、関係者は職を失い、職安に通う日々が始まった。
ふと、あの手紙を思い出し、連絡を取ってみた。
「もしよければ、うちで働きませんか?」
なんと落とし主は、別のホールのオーナーの奥様だったのだ。
その縁で新しい職場に迎えられ、努力の甲斐あって、今では店長として活躍している。
たった一つの小さな親切が、人の人生を変えることもある。
拾ったものを正直に届けただけ。けれど、その行動が深く誰かの心に響き、新しい縁を引き寄せる。おばあちゃんの教えは、時を超えて今も生きている。
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