「あまりにも荒唐無稽だ」
エイプリルフールネタかと思ったほどである。
なにしろ、遊技機メーカーがスマホメーカーになるというのだから。
ケータイやPHSが普及し始めた1990年代、多くの家電メーカーがこぞってケータイ市場へ参入した。しかし、市場が成熟すると淘汰が始まり、スマホ時代を迎えた現在、日本メーカーで今でも生産しているのはソニー、シャープ、富士通系の3社だ。さらに日本市場ではiPhoneの人気が圧倒的で、新規参入のハードルは極めて高い。
実際、トースターで一世を風靡したバルミューダが2021年にスマホ事業へ参入したものの、わずか2年あまりで撤退を余儀なくされた。
それほど厳しい市場へ、なぜ門外漢の遊技機メーカーが挑もうというのか。
きっかけは、ある営業担当者がホール店長から聞いた何気ない一言だった。
「外国人のお客様が増えてきたけど、言葉が通じないので積極的に接客できない。翻訳機はあるけれど、持ち歩くのは現実的じゃない。最初から翻訳機能が充実したスマホがあれば助かるんだけどね」
何気ない現場の声だった。
ところが、その話を営業会議へ持ち帰ると、会社の空気が変わった。
「遊技機は国内市場が縮小する一方で、世界へ展開することは極めて難しい。しかし、スマホなら世界市場が相手になる」
そんな発想が生まれたという。
もちろん、翻訳機能付きスマホというだけでは差別化にはならない。今でも高性能な翻訳アプリは数多く存在し、多言語翻訳はスマホの標準機能として搭載される時代になりつつある。単に翻訳アプリをプリインストールしただけでは、無名のメーカーに対して、ユーザーが新しいスマホを選ぶ動機にはなるはずもない。
むしろ重要なのは、「翻訳専用端末」ではなく、「翻訳体験」をどこまで磨き込めるかだろう。
例えば、電話やビデオ通話でも同時通訳ぐらいのレスポンスで、外国人観光客との会話をリアルタイムで支援できるのであれば、ホールだけでなく、ホテル、飲食店、小売店など、多くの接客現場で一定の需要は見込める。
とはいえ、遊技機メーカーがゼロからスマホを開発・製造するとは考えにくい。
現実的には、既存メーカーをM&Aで取得するか、OEMを活用して自社ブランドとして販売する形になるだろう。
重要なのは、「スマホを作ること」ではなく、「遊技機だけでは未来が描けない」という危機感からの発想である。
市場が縮小する中で、新たな成長分野を模索するのは企業として当然の判断だ。
今回の構想が実現するかどうかは分からない。
翻訳機能を武器にしたスマホが市場で受け入れられる保証もない。
しかし、遊技機という枠の中だけで未来を考えるのではなく、「世界市場で勝負できる商品を持ちたい」という発想そのものは、これまでのメーカーにはあまり見られなかった。
一笑に付して終わる話なのか、それとも10年後に「あの時の構想が現実になった」と振り返る日が来るのか。
その答えは、翻訳機能ではなく、遊技機メーカーがどこまで本気になっているかにかかっている。
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