「神奈川県でやっている海の家の権利を買ってくれないか」
理由は至って簡単。昔のように儲からなくなったからだ。
かつて海の家は「夏の1カ月で1年分を稼ぐ」とまで言われた商売だった。海水浴客で浜辺は埋め尽くされ、焼きそばやかき氷を売るだけでも飛ぶように売れた時代がある。
ところが、その黄金時代は完全に過去のものとなっていた。
近年は40度を超える猛暑日が珍しくなくなり、熱中症リスクを避けるため、外出を控える人が増えた。さらにレジャーの多様化に加え、「日焼けしたくない」「砂でベタベタするのは嫌」という若年層の価値観の変化も追い打ちを掛ける。
その結果、1985年には約3800万人いた全国の海水浴客は、現在ではその1割程度にまで減少したとされる。海水浴客は屋内や設備の整った大型レジャープールへ流れている。
人が来なければ、海の家は成り立たない。
しかも経営環境は厳しさを増している。海の家は毎年、シーズン前に木材や鉄骨を運び込み、建物を組み立てる。そして営業終了後にはすべて解体・撤去しなければならない。
建材費は上がり、人件費も高騰し、重機や機材のリース代まで値上がりしている。
「営業する前から赤字が確定する」
そんな理由で出店そのものを断念する事業者も少なくない。
そんな筋の悪い案件を持ち込まれたオーナーも、最初は断るつもりだった。
しかし、しばらく考え込んだ末、突然ひらめいた。
「海の家に行きたくなる理由を作ればいい」
発想そのものは間違っていない。
オーナーが考えたのは、エアコンの効いた快適な部屋でパチンコやパチスロが打てる海の家という構想だった。
海で泳いだ後は、涼しい室内で遊技を楽しむ。
海水浴客だけでなく、暑さを避けたい人も呼び込める――という理屈である。
確かにエアコンは効いている。日焼けもしない。
しかし、それなら最初からショッピングモールへ行けば済む話ではないか、という身も蓋もない疑問も湧いてくる。そもそも海へ来てまでパチンコを打ちたい人が、どれほどいるのだろうか。
しかも皮肉なことに、この計画は「オワコン」と言われ続けている海水浴場へ、「オワコン」と揶揄されることもあるパチンコを組み合わせるという構図になる。
オワコン同士を掛け合わせれば、新しい価値が生まれるというのだろうか?
事業というものは「面白い」と「儲かる」は別問題であるが、来年の海水浴シーズンに間に合わせるべく、水面下で検討を進めているという。
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