企画会社の社長は筋金入りのパチンコ好き。
自身のホール体験から、「これは絶対に需要がある」と自信満々で提案してきた商品だった。
それは、パチンコの騒音を遮断しながら、イヤホンの音をクリアに聴ける専用イヤホンカバーだった。
かつてパチンコ店では、騒音対策用としてウレタン製の耳栓が端玉景品として飛ぶように売れた時代がある。
全盛期のホールは凄まじかった。
8割、9割稼働ともなると、玉の打ち出し音、補給音、役物の効果音、店内BGM、呼び出しマイクが混ざり合い、まさに“爆音空間”だった。
長時間打っていると耳鳴りがするレベルで、耳栓は実用品として需要があった。
しかし時代は変わった。
現在のホールは、平日ともなれば稼働2割前後の店も珍しくない。
スマート機の普及で玉の補給音も減少。昔に比べれば、騒音レベルははるかに穏やかになっている。
そんな中で持ち込まれたのが、この「イヤホンカバー」だった。
原価は12円。
100均向けに16円で卸す計算だという。
価格だけ見れば悪くない。
しかし、販売会社側は率直に疑問をぶつけた。
「これ、本当に売れると思う?」
そこで社内のパチンコ好き社員に試作品を使わせてみた。
結果は散々だった。
「わざわざ付け替えるのが面倒」
「そこまで困ってない」
「普通のイヤホンで十分」
つまり、「あったら便利」ですらなかった。
企画会社の社長は、自分の成功体験を基準に市場を見ていた。昔のホールでは確かに騒音は深刻だった。だから耳栓は売れた。
しかし、今の客はそこまで騒音に困っていない。
さらに言えば、現在のホール客は「快適さ」を求める一方で、面倒な工夫は極端に嫌う傾向がある。
イヤホンカバーを装着するひと手間すら、支持されない。
ここに、今のパチンコ業界の商品開発の難しさがある。
「昔ヒットしたもの」を現代風にアレンジしても、市場環境そのものが変わってしまっている。
全盛期の成功体験は、時として最大の落とし穴になる。この商品が象徴しているのは、今のホールが静かになった、という事実ではない。
「昔の常識が、もう通用しなくなっている」という現実の方なのかも知れない。
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