束縛されることもなく、自分の好きなことに時間とお金を使う。そんな自由な生活の中で、最大の趣味となっているのがバイクツーリングだった。
ツーリング先の景色や走行動画を記録するため、以前から欲しかった360度カメラの購入を決意した。
選んだのはインスタ360。
撮影した映像を後から好きな角度で楽しめることが魅力のカメラで、バイク好きには人気の商品である。
そこで向かったのがヨドバシカメラ池袋店だった。
ただ、この日の池袋はいつもとは少し違った。世間を騒がせた「ウンコテロ」の影響で、店内には事件情報を聞きつけた客も多く訪れていた。中には従業員に「ウンコが流されたエスカレーターはどこですか?」と尋ねる人までいたというから、騒動への関心の高さが分かる。
そんな状況の中、男は目的の商品売り場へ向かった。
念願のインスタ360。価格は約7万円。
決して安い買い物ではないが、これからのツーリングの楽しみが増えると思えば惜しくはない。
しかし、ここでパチンコ歴45年の男の中に、もう一人の自分が現れた。
「せっかくパチンコ激戦区の池袋まで来たんだ。7万円ぐらいパチンコで取り戻せばいいじゃないか」と悪魔のささやきである。
長年パチンコを打ってきた人間なら、一度は経験したことがある誘惑だ。もちろん、世の中そんなに甘くはない。
結果は惨敗。見事なまでに返り血を浴び、4万円の負け。
つまり、この日のインスタ360は7万円ではなく、実質11万円の買い物になった。
この負けが、男の中で何かを吹っ切るきっかけになった。
よほど悔しかったのか、幼馴染に電話を掛けた。
「俺、パチンコを金輪際打たないことを宣言する。お前が証人だ」
45年間続けてきた習慣との決別宣言だった。
実は、このところパチンコでは負け続きだった。今回の4万円の負けは、単なる金額の問題ではなく、「もう潮時だ」と感じさせる最後の一撃になった。
男曰く、今回の禁パチ宣言の感情は、15年前に離婚を決断した時と似ているという。
離婚の原因は、奥さんがほとんど家事をしなかったことだった。家の中は徐々に片付かなくなり、ゴミ屋敷のような状態になる前に、結局は男が掃除や家事をするしかなかった。そのことで夫婦げんかが絶えなかった。
離婚した時は、悲しみよりも「これで自由になれる」という清々しさの方が大きかった。
そして今、同じような感覚が蘇っている。
パチンコは長年、男にとって娯楽であり、生活の一部でもあった。しかし、負ければ悔しさが残り、時間もお金も消えていく。
62歳という年齢になり、残りの人生をどう楽しむかを考えた時、バイクで走り、景色を撮影し、新しい趣味に時間を使う方が有意義ではないか。
7万円のカメラを買うはずが、11万円の買い物になった今回の出来事。
しかし、それが45年続いたパチンコとの決別料だったと考えれば、決して高い買い物ではなかったのかもしれない。
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