中でもパチンコは長年の趣味であり、退職後は時間に縛られない生活を手に入れたことで、文字通り“パチンコ三昧”の日々を送るようになった。
しかし、その生活は長く続かなかった。退職金の中から自由に使える小遣いが徐々に減り始め、気がつけば底が見えてきた。さらに、家でゴロゴロしながらパチンコに通うだけの生活に、奥さんの視線も冷たく刺さるようになった。居場所を失いかけたAさんは、次第に「このままでいいのか」という不安に駆られるようになった。
パチンコ以外にこれといった趣味を持たなかったAさんは、健康も兼ねてウォーキングを始めたものの、長続きはしなかった。空いた時間を埋める術がなく、結局はホールへ足が向いてしまう。しかし、そこで待っているのは勝てない現実だった。以前のように遊べる感覚はなく、行けば負ける。そんな日々が続いた。
転機となったのは、「パチンコをやめたい人たちのサークル」との出会いだった。同じ悩みを抱える高齢者が集まり、定期的に会合を開くだけでなく、バス旅行などのイベントも企画されている。普段はLINEで連絡を取り合い、互いの状況を共有することで、依存からの脱却を支え合っている。
その活動の一環として行われたのが、都内から群馬への一泊旅行だった。興味深いのは、そのプログラムに「パチンコ」が組み込まれていた点である。ただし、行き先は通常のホールではない。プレハブのような施設に約80台の遊技機が並び、1時間1000円で遊べる時間制。スタートはブン回り、スロットは全6と、ストレスなく楽しめる環境だが、換金は一切できない。
この体験がAさんの意識を大きく変えた。
「出ると分かっている台を打っても、まったく面白くない。あれほど熱中していた自分が、急に馬鹿らしく思えた」と振り返る。
つまり“逆療法”である。勝ち負けの緊張感こそが、自分を縛っていた本質だったと気づいた瞬間だった。
現在のホール環境は、かつて以上に厳しい。10回行けば10回負けると感じるほどの回収傾向に、Aさんのように見切りをつける人も増えている。結果として、彼はパチンコから足を洗うことに成功した。
やめてから1年。Aさんの生活は大きく変わった。派手さはないが、少なくとも「負け続ける日常」からは解放された。皮肉にも、勝てない現実こそが、長年の習慣を断ち切る最大のきっかけとなったのである。
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