業界人のAさんは、反射的に耳を傾けた。
「今までいくらパチンコに貢いだと思ってるの!」
おばあさんが怒っている。対するおじいさんは、ただ黙ってうなだれていた。
よくある夫婦の会話かと思ったが、話を聞くうちに事情が見えてきた。
おじいさんは少し前、パチンコを打っている最中に突然倒れた。心臓に持病があり、その日はホールで遊技中に容体が急変。従業員がすぐに救急車を手配し、一命を取り留めたという。
この日は退院後の定期検診だった。
おばあさんは感謝の気持ちを伝えるため、後日、菓子折りを持ってホールを訪れた。
その際、店長との雑談の中で思わぬ事実を知ることになる。
おじいさんはその店の常連客で、長年コツコツと貯玉を続けていた。そして、その残高は何と130万円分にも達していた。
それを聞いたおばあさんは驚いた。
「もし主人が亡くなったら、この貯玉はどうなるんですか?」
当然の疑問だった。
しかし店長も即答できなかった。
「これまで同じケースがなかったので……」と言葉を濁すしかなかった。
おばあさんは続けて、
「だったら全部引き出したい」と申し出た。
店長は「ご主人がお元気になられたら、一緒にご来店ください」と回答した。
結局、貯玉は本人の財産であり、本人確認が基本になるからだ。
幸い今回は、おじいさんが生存しており、家族も貯玉の存在を把握できた。
「今度は私も一緒に行きますからね」
おばあさんはそう言ったが、おじいさんは相変わらず黙ったまま、小言を聞き流していた。
しかし、この話には別の問題がある。
今回は偶然にも家族が貯玉の存在と金額を知ることができた。しかし、すべてのケースがそうとは限らない。
常連客の中には数十万円、場合によっては100万円以上の貯玉を持っている人もいる。
ところが家族はその事実を知らない。
本人が突然亡くなった場合、その貯玉は誰にも気づかれないまま放置される可能性がある。
銀行口座なら相続手続きという発想があるが、貯玉については家族が存在そのものを知らないケースも少なくない。
ホール側も積極的に「ご家族にお知らせします」とはならない。
結果として、引き出されることのない“睡眠貯玉”になってしまう。
病院の待合室で交わされていた夫婦の会話は、単なる夫婦げんかではなかった。
それは、高齢化が進むパチンコ業界にとって、これから増えていくであろう現実的な問題を映し出していた。
貯玉は遊技のための残高である一方、見方を変えれば立派な個人資産でもある。
だからこそ、高齢常連客が増える中で、「本人に万一のことがあった場合、貯玉をどう扱うのか」というルール作りは、今後ますます重要になってくるだろう。
おじいさんは命を取り留めたからよかった。
ここで、130万円分の貯玉が教えてくれたのは、パチンコ店が向き合うべき新たな高齢化問題でもあった。
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